石見銀山生活文化研究所・松場大吉さん (下)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年2月24日

石見銀山生活文化研究所・松場大吉さん (下)

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(前回)石見銀山生活文化研究所・松場大吉さん (上)

松場大吉さん・登美さんご夫妻が長年にわたり力を注いできたことの一つに「古民家再生」がある。島根県大田市大森町内にあった武家屋敷を買い取り、一〇年以上かけて手を入れ、二〇〇八年に「他郷阿部家」という宿泊施設に立て直した。
松場大吉さん
 二〇〇九年十一月の紅葉の美しい時期、そして二〇一一年二月、粉雪が舞う凍えるような季節、二度にわたり宿泊した。人に「一番印象に残っている宿泊地はどこ?」と聞かれると、私は迷わずに「石見銀山の阿部家」と言ってしまう。建物が持つ時間を蓄えたたくましさ、おおらかさと、地場の食材をふんだんに使った心づくしの料理。「またあの場所に身を置きたい」と思わせる懐の深さが、阿部家には確かに存在している。

「何回も何回も混ぜるとお湯がやわらかくなっていく。あれと同じで、時間が作り上げた変化がある。空気がやわらかいし、優しいんだね。それが阿部家の特徴かもしれないね」

二〇一六年、「MeDu」というスキンケアのブランドが新たに誕生した。今までは「群言堂」というブランドの中で、洋服、雑貨など生活全般に亘る商品と、心地よいカフェを提案し続けてきた。なぜ、今スキンケアなのか?

「MeDu」は梅花酵母菌を使った洗顔せっけん、ローション、保湿クリーム、そして肌糧(はだかて)という食べるゼリー四種類からなるスキンケア製品だという。「発酵文化は私がずっと興味を持ち、研究してきたことなんだ。味噌も醤油も酒も、日本が世界に誇れる発酵食品。日本の食を司る根源でもあるからね。それがある時、天からの授かりもののように、石見銀山の梅の木から、酵母菌を見つけることができた。六〇歳を前にして、梅花酵母という目に見えない微生物に人生をかけてみたくなった」という。二〇一七年三月には、この酵母菌を使った味噌もお披露目するという。

大吉さんと話をしていると「目に見えないもの」という表現が何度も出てくる。
「現在は物欲社会から、精神社会に入ったと思っています。目に見えないものがとても大切だと気づかされています。昔はデザイン力を持ったデザイナーがブランドだった。今は生きざまや考え方がブランドになる。物の向こうに人があり、その向こうに考え方がある。もしかしたらファッションという言葉も、なくなっていくのかもしれないね、残っていくのは暮らすための服」
2冊組の著書『ぐんげんどう』(2015年、平凡社)
大吉さんたちの歩みは、「目に見えないもの」をいかに大切にしながら暮らしていくか、その模索である気がする。大きな秤を用いれば、それは日本文化の継承。目線を変えれば、日本の里山の自然や景観、そして日常の暮らしの営みのすべて。三〇年かけて培ったことを、これから次の世代にどう渡すかも、真剣に取り組みたいことだという。

「道半ば」という言葉が好きだという大吉さんに、これからの夢を聞いてみた。「今年、孫が三人生まれる予定なんだ。そうなると八人の孫を持つことになる。孫たちと一緒に働くことはできないかもしれないけれど、彼らが石見銀山で社会人として働いている姿を見てみたい」

具体的に見えているものは夢でも何でもないという。「叶わないものを夢として抱き続ける。こんな考え方があってもいいよね」

(前回)石見銀山生活文化研究所・松場大吉さん (上)
2017年2月24日 新聞掲載(第3178号)
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