第68回読売文学賞贈賞式 開催される|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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受賞
2017年2月24日

第68回読売文学賞贈賞式 開催される

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二月十七日、東京都内で第六十八回読売文学賞の贈賞式が催された。受賞作品は次の通り。

〈小説賞〉リービ英雄『模範郷』(集英社)
〈戯曲・シナリオ賞〉ケラリーノ・サンドロヴィッチ「キネマと恋人」(上演台本)
〈随筆・紀行賞〉今福龍太『ヘンリー・ソロー 野生の学舎』(みすず書房)
〈評論・伝記賞〉梯久美子『狂うひと 『死の棘』の妻・島尾ミホ』(新潮社)
〈詩歌俳句賞〉ジェフリー・アングルス詩集『わたしの日付変更線』(思潮社)
〈研究・翻訳賞〉塩川徹也・訳[パスカル『パンセ』全3冊](岩波書店)


写真は左からリービ英雄氏、ケラリーノ・サンドロヴィッチ氏、今福龍太氏、梯久美子氏、ジェフリー・アングルス氏、塩川徹也氏

 【梯久美子氏の挨拶から】

狂うひと(梯 久美子)新潮社
狂うひと
梯 久美子
新潮社
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島尾敏雄さんの『死の棘』は今から三十九年前にこの同じ読売文学賞の小説賞を受賞されています。その日に島尾さんがどんなことを日記に書いているかというと、その時は島尾さんご夫婦は冬の寒いのが嫌だということで、那覇に小さい借家を借りて過ごされていたのですが、「「その日の夜。夕食の時にミホ「おめでとう」と言ってくれる。二人で密やかに祝う」と書いておられます。私が授賞のご連絡を受けた時に何をしたかといいますと、受賞した自分の本を最初から読んでみることでした。その一番最初の行は「そのとき私は、けものになりました」というミホさんの言葉から始まっています。これは『死の棘』の事件の原因になった、浮気の事実が書かれた夫、島尾敏雄の日記をミホさんが読んだ時の話なんです。けもののように咆哮して、畳の上をよつんばいになって駆け歩きましたとおっしゃったことが書いてあります。私は四回目の取材で奄美の御宅でそのお話を聞いていたのですけれども、背中がゾクゾクっとしまして、今この言葉この場面を絶対に書こうと思いましたが、結局それが最後の取材になりました。そのあとミホさんから編集部にご連絡があって、やはり取材はここで打ち切ってほしい、私のことは書かないでほしいと言われてしまいました。その一年後にミホさんは亡くなってしまいますので、それがお会いした最後の日でした。それが今から十一年前の今日、二〇〇六年の二月十七日だったんです。奇しくもこの日が授賞式となり何か不思議なものも感じています。私はミホさんにもう取材をするなと言われたことを、ミホさんが亡くなったあとになって勝手に書いてしまったわけで、たぶんミホさんは今も許してくださってないでしょうし、いつか私も死んでミホさんとお会い出来ることがあったら叱られるのではないかと思っていますが、十年間しつこく私がどうしてもこれを書きたいと思って書き続けてきたのは、ミホさんのエネルギー、彼女の持つ力のなせるわざで、ずっとその力に引きずられて今日ここに立っているなという気がしております。先ほどから皆さんのお話を聞きながら目で会場のお一人お一人の顔を順番にチェックしていくのがやめられませんでした。それはもしかしたらどこかにミホさんのお顔があるのではないかと思ってしまうからです。ミホさんは今でも私のことを厳しい目で見てくださっているのではないかなと思います。もし会場の中で八十歳過ぎぐらいの黒いレースの喪服を着た不思議に美しいおばあさんを見かけた方がいらっしゃいましたら、あとで私にこっそり教えていただきたいと思っています。本日はありがとうございました。

<WEB限定>贈賞式選考委員講評と受賞者挨拶はこちらからご覧いただけます。
2017年2月24日 新聞掲載(第3178号)
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