終わりなき対話 Ⅰ複数性の言葉 / モーリス・ブランショ(筑摩書房)半世紀を経て待望の邦訳刊行  現代を考えていく者に多くの刺激を与える|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年2月24日

半世紀を経て待望の邦訳刊行 
現代を考えていく者に多くの刺激を与える

終わりなき対話 Ⅰ複数性の言葉
出版社:筑摩書房
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半世紀を経て待望の邦訳刊行 現代を考えていく者に多くの刺激を与える 岩野 卓司
ついにモーリス・ブランショの『終わりなき対話』の邦訳が刊行開始された。この書物がフランスで出版されたのが一九六九年であるから、既に約半世紀の月日が経過している。わが国でもブランショへの関心は高く、その難解な小説や批評が幾つも翻訳されている。それなのに、一九五〇年代後半から七〇年代にかけて、ブランショの思考がひとつの極点に達した『終わりなき対話』から『災禍のエクリチュール』までの著作は、日本語では未だその全貌は把握できないままであった。その意味で、『終わりなき対話』の刊行開始は、画期的な事件と言えるであろう。この思想家の最も深い作品のひとつの刊行は、フランス文学・思想研究のみならず、現代を考えていく者に多くの刺激を与えてくれるのではないのだろうか。

今回、『終わりなき対話』の第一巻として訳出されたのは、その全体の序論ともいうべき「終わりなき対話」と第一部「複数性の言葉(エクリチュールの言葉)」である。『終わりなき対話』は三部構成であり、以下刊行予定の第二部「限界―経験」、第三部「書物の不在」へと続いている。それでは、第一部のタイトル「複数性の言葉」は何を意味するのか。例えば、複数の人による対話と解釈できるかもしれない。実際、冒頭の「終わりなき対話」をはじめ幾つかの論考は対話形式で書かれている。伝統的な哲学の思考はプラトン以来しばしば対話の形式を用いているが、哲学の対話が統一を求めるのに対し、ブランショの思考は統一への帰着を絶えず拒否している。だから、対話は「終わりなき」ものとなるのだ。しかし、この「複数性」は単に対話を指しているのではない。ブランショは、言葉の中にもうひとつの言葉を探っていこうとしているのだ。もうひとつの言葉とは、それなくしては一切の言語活動が成立しえないものであるが、それはもう言葉とも言えないようなものなのである。だから、彼は「非―言葉」、「言語活動の外」、「中断」といった語彙を駆使しながら、手探りで思考を進めていく。また長い間ブランショは、「書くこと(エクリチュール)」について考察してきたが、ここでも「書き言葉(エクリチュール)」との類推で、もうひとつの言葉を探究している。この点で、『グラマトロジー』などで展開されるデリダの原=エクリチュールの発想と極めて近いと言えるだろう。

こういったブランショの思考も、バタイユの「未知なるもの」の神秘的経験、ハイデッガーの「隠れることによって己を告げる」存在の思想、とりわけレヴィナスの「他なるもの」の倫理の影響を強く受けている。そして注意すべきは、ブランショがこの影響を活かしつつ、もうひとつの言葉についての自分の思考を一層深めている点にある。バタイユからは無媒介的な融合の要素を取り除き、ハイデッガーでは存在の優位を問い質し、レヴィナスの「他なるもの」との関係は無為、不規則、非統一として探究される。このように彼は妥協することなく問いを掘り下げていくが、その作業を通して、人がそれまで安住してきた「神」、「自我」、「一なるもの」、「書物」などの概念を徹底的に問い直していくのだ。

言葉と他者への問いは、更にコミュニケーションの問題を提起している。しかしブランショは、意味の伝達に満足するコミュニケーションではなく、それが不可能になるところでのみ生じる根本的なコミュニケーションを考えていく。この逆説的なコミュニケーションでは、文学が範例的な役割を果たすのと同時に、新しいコミュニズムの可能性が示唆されている(「はしがき」)。それは財産の共有を基盤とした共産主義ではなく、他者との関係を不可能すれすれのところから始める共同体の思想に他ならない。

資本主義の行き詰まり、テロの横行、宗教的な対立が問題になっている今日、共同体について考えることは我々にとって喫緊の課題である。ブランショは貴重な遺産を残してくれたのではないのだろうか。(湯浅博雄・上田和彦・郷原佳以訳)
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年2月24日 新聞掲載(第3178号)
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終わりなき対話 Ⅰ複数性の言葉/筑摩書房
終わりなき対話 Ⅰ複数性の言葉
著 者:モーリス・ブランショ
出版社:筑摩書房
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