鳥と人間をめぐる思考: 環境文学と人類学の対話 / 野田 研一(勉誠出版)複数種の人文学へ  「人間的なるもの」を越える創発的応答|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年2月24日

複数種の人文学へ 
「人間的なるもの」を越える創発的応答

鳥と人間をめぐる思考: 環境文学と人類学の対話
出版社:勉誠出版
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地表面の境界を超えて、さまざまな空間を活動域とする鳥たちの生態に、人類は古くから特別な関心を抱いてきた。遊泳し、飛翔し、俯瞰し、旋回し、滑空し、急降下する鳥たち。天と地のあいだを行き来し、群をなして大陸を渡る鳥たち。水中を潜り、嘴で魚を捕らえ、水掻きを使って浮上する鳥たち。森の奥に潜み、露出した岩で巧みに蝸牛の殻を割る鳥たち。そうした鳥類の多様な生態は、地上に生きる人びとを魅了し、そのあり方や他の生物との関係についての思考を促してきた。

『鳥と人間をめぐる思考:環境文学と人類学の対話』と題された本書は、民族誌・神話・小説・映画・絵画・博物館展示・民族鳥類学等々、鳥類をめぐる多様な思考と表現を、時空を超えたコンタクト・ゾーン(接触領域)の体験から探ろうとする実験的試みである。ここで主軸となるのは、近年大きな転回を遂げつつある環境文学と人類学。前者は「異なる文化」を超えたもう一つの他者性の次元を、人間を取り巻く自然次元の描写(「ネイチャー・ライティング」)から取り出そうとしている。後者は近年、社会制度や文化表象の枠組みを超えて、人間を含む複数種の相互作用や共生関係をダイナミックに描写する「複数種の民族誌」や、人間存在を相対化する「人間以上の人類学」を目指している。十六名の論者はいずれも、こうした大きな知的転回を見届けながら、まだあまり踏み均されていない道を歩もうとする書き手ばかりだ。

環境文学と人類学という二つの圏域の関心が互いに引き付け合い、また拮抗し合うなかで、本書はこれまであまり論じられることのなかったいくつもの論点を炙り出すことに成功している。しかし、本書には二つの潮流をめぐる重要な亀裂が、意図的に露呈されているかのようにも見える。作者の生み出した作品世界を通した自然次元の考察(環境文学/エコ・クリティシズム)と、民族集団や共同体のなかで生み出される独自の思想の理解(民族誌学/人類学)は、たしかに簡単には縫合することのできない、方法論的な亀裂を孕んでいる。しかし、そうであるからこそ、特異な「個」と共同的な「種」のカテゴリーを越境するように、本書では各所で相互浸透的な応答や相互参照が生じ、興味深いテクスト実践が生まれているのだ。こうした浸透は、本書の第一歩となったシンポジウムの記録である第一部で既に生じ、人類学者と文学者による短い応答を経て、第二部(鳥をめぐる文学)と第三部(鳥をめぐる人類学)の詳細な論考では、より大きな規模で反復されている。

本書の編者の一人である野田研一によれば、人間と自然の根源的な関係を突き止めるためには、認識論的な二項対立をただ排除するだけでは不十分であり、むしろその対立を深化することによって「他性」を発見する契機が重要であるという。そうして深められた他性は、世界中のさまざまな生物や無生物、あるいは虚環境に棲む想像的対象にさえ「自己」としての主体性を認める、新たな思考の次元を拓く。

エドゥアルド・コーンが「諸自己の生態学」と呼ぶその視点は、今日の人文諸科学の再構築の先に現れる、未知の知性の様態を予見するものであろう。その意味では、本書はまさに互いの学知や方法論の亀裂を強烈に自覚することの中から、互いを「他者化」し、「他性」を深め合った成果である、と言えるのではないだろうか。
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年2月24日 新聞掲載(第3178号)
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鳥と人間をめぐる思考: 環境文学と人類学の対話/勉誠出版
鳥と人間をめぐる思考: 環境文学と人類学の対話
著 者:野田 研一、奥野 克巳
出版社:勉誠出版
以下のオンライン書店でご購入できます
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