目黒哲朗「生きる力」(2017) 「物静かな普通の女性。会へばいつも挨拶をする人だつた。」われは|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
2017年3月3日

「物静かな普通の女性。会へばいつも挨拶をする人だつた。」われは
目黒哲朗「生きる力」(2017)

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短歌雑誌「歌壇」二〇一七年二月号にて発表された連作「生きる力」のうちの一首である。前年十月に浦安市で発生した実在の通り魔事件がテーマとなっている。この事件では三十二歳の女性が逮捕されたが、どうやら彼女は作者のかつての教え子であったらしい。

ネット時代である。容疑者の個人情報はあっという間にウェブに拡散され、「危険な狂人」というレッテルのまま面白半分の正義ごっこのおもちゃとなってゆく。学生時代の彼女を知っている作者にとっては、腸が煮えくり返るような思いだったことだろう。この歌の「われは」というのは「われにとっては」という意味だ。「頭のおかしい女性。会っても目も合わさない人だった。」という「評判」が瞬く間に流布してゆく。「犯罪者は異物である」という情報をメディアは求め、大衆はそれを消費して差別へのお墨付きをもらって安心する。

「そうではない。私にとっては物静かで普通で、会えばいつも挨拶をする人だった」と作者は主張する。しかしそれは誰にも届かない。「普通の人間でもちょっとしたことで犯罪に手を染めることがある」というストーリーは、当の普通の人間たちが耳をふさいで拒む。彼らは、犯罪者は生まれつき、もしくは悲惨な生い立ちがあるなどのストーリーがなければ自己を保てないのだ。そんな大衆の集合的無意識を前にして、「普通の人間」が一人押し潰されようとしている。もしかすると作者も含め二人かもしれない。(やまだ・わたる氏=歌人)
2017年3月3日 新聞掲載(第3179号)
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