描写にすぐれ深い味わいがある詩ー武西良和『詩でつづる ふるさとの記憶』 力作、始まりの一行から惹かれるー大坪れみ子「事象」|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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文芸同人誌評
2017年3月3日

描写にすぐれ深い味わいがある詩ー武西良和『詩でつづる ふるさとの記憶』
力作、始まりの一行から惹かれるー大坪れみ子「事象」

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カワセミが 五羽一斉に 飛び立つ野川 早春の朝
軽舟


駅前付近への散歩の帰りに『ボブ・ディラン語録 静寂なる魂の言葉』(ジョー横溝編著、セブン&アイ出版)を近くのコンビニで買った。最近はコンビニで意外な本を見つけることもある。

ギターを弾きながら舞台上で歌っているボブ・ディランの写真がたくさん掲載されている。ミュージシャンの恰好がよく似合っている。新聞では「米国のシングソングライター」或いは「ミュージシャンで作詞家」などと紹介されている。

語録も自由な発想が随所に見られる。

「ランボーかな。   
それとW・フィールズ。
それから、スモールキー ・ロビンソン、
アレン・ギンズバーグ、
それにチャーリー・リッ チなんかもいい詩人だ。
(好きな詩人について問われ)」

単純明快な五行の詩だ。読者の方ではいろいろと想像力を働かせることができる。

昨年、受賞直後にNHKスペシャル「ボブ・ディラン ノーベル賞詩人 魔法の言葉」を観た。

その印象では、今、アメリカ社会は、自爆テロの恐怖、複雑な人種問題などの渦中にあって、分断社会が進行、その中にあって、ボブ・ディランの音楽と詩が人々にある種の慰安を与えているように感じた。詩の役割が大きい。

今月は武西良和『詩でつづる ふるさとの記憶』(発行所は著者、製本所は和歌山新報社。自分で編集し製本を別に頼めば、手軽に出版できる)が収穫。
「この本は日刊「わかやま新報」連載のまとめである。それぞれのページは一回分で、詩とそれについての添え書き、および写真からなっている」(「あとがき」)
次に作品の一つを引用する。描写にすぐれ深い味わいがある詩だ。

ラッキー
土手に上がって犬は
堰を流れる音にじっと
耳を澄ませていた
突然
吠え始め
川と道の間
夕暮れ
のなかを走り出した
自然と人間の間を生きる

という存在

「犬の行動を観察し考えていると、今まで経験しなかったことが経験されるようで、私にとっては新しい世界が見えてきたように思えた。毎夜の散歩は私たち夫婦の健康を促進させてくれた」

「生前のラッキー」と説明文のついた写真がカット代わりに掲載されている。編集上の工夫があるのも特色。詩を書いている人の参考になろう。

大坪れみ子「事象」(「舟」一六六)は「ここはハクチョウのとおりみちだから」で始まる力作。

小説では宮川扶美子「続いぬまち」(「黄色い潜水艦」六十五)が佳品。

この他、小長美津留「随筆 気づかなかった幸せの日々」(「架け橋」二十二号)、陽羅義光「昔日」(「全作家」一〇四号、掌編小説特集号)、猿渡由美子「駅に立つ」(「じゅん文学」九十号)、中谷恭子「詩 部屋」(「とぽす」六十号)、伽藍みずか「銀座にバーをつくるまで4」(「四人」九十六号)、松村信二「葉末の露」(「詩と真実」八一二号)にひかれた。(しらかわ・まさよし氏=文芸評論家)
2017年3月3日 新聞掲載(第3179号)
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