第156回芥川・直木賞贈賞式開催  山下澄人氏と恩田陸氏の二人に贈られる|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

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受賞
2017年3月3日

第156回芥川・直木賞贈賞式開催 
山下澄人氏と恩田陸氏の二人に贈られる

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2月23日、東京都内で第百五十六回芥川賞・直木賞の贈賞式が行われ、芥川賞の山下澄人氏(「しんせかい」新潮七月号)と直木賞の恩田陸氏(『蜜蜂と遠雷』幻冬舎)に賞が贈られた。

選考委員挨拶で芥川賞の小川洋子氏は「山下さんは四回目の候補でのご受賞ですが、最初に候補になった時から気になる存在でした。「しんせかい」はガツンと自己主張してこちらに迫ってくるタイプの作品ではありませんが、何か素通りできない無視できない気配をにじませていて、不用意に触れると妙に気色の悪いねっとりした感触を残し、こちらの神経を麻痺させて判断基準を鈍らせるところがあって、選考会ではふと気づくと「しんせかい」だけが残っていたというような不思議な過程を経て結論に至りました。
語り手の「ぼく」は危なっかしいくらいに世間知らずな19歳の青年で、乳離れしたばかりの野生動物の子供みたいな存在です。自分のそばにいる人や眼の前で起こる出来事を分析して納得できるかたちにまとめ上げるまでの言葉をまだ獲得してない。普通そういう未熟な人を描く時でも一応常識を備えた成熟した人間が未熟を描くということしか出来ないのですが、山下さんの凄いところは、主人公の未熟さと書き手の山下さん自身が見事に重なり合っていてそこに誤差がない(笑)。
主人公は人間の心というあやふやなものに言葉を与えてとりあえず決着をつけるような小賢しいことは出来ませんが、その結果理屈で辿り着けるよりももっと遠い思いがけない場所へ読者を置き去りにします。そういう容易に言葉に出来ないものを表すのは、成熟した表現ではなく、むしろ言葉になる以前のあまりにも痛々しいほどに未熟な言葉なんだと思わされました。山下さんはそういう言葉を持った作家だと思います」と評した。

蜜蜂と遠雷(恩田 陸)幻冬舎
蜜蜂と遠雷
恩田 陸
幻冬舎
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 直木賞の北方謙三氏は「恩田さんの作品は直木賞候補になったものだけでなくその前から読んでいましたが、候補になるたびに全く違う世界になっているという驚きがずっとありました。今度はどんな世界かと思って読んだら、1ページ読んだらやめられなくなって一気に読んでしまいました。そこには言葉の洪水みたいなものがあって、音楽を言葉で表現するのは非常に難しいことだと思うけど、その方法があるとしたらこれがそうなのか、表現として新しいなと思ったのですが、言葉に押し流されて音は聴こえてこなかった。活字で音なんか聴こえてくるわけないなと思いつつ二回目に読んだら、活字から目を離すと音が聴こえてきた。これほど言葉が溢れていても活字から目を離すと音が聴こえてくる表現は今まで誰もなし得なかっただろうという小説でした。ゆっくり読むと音を聴くことが出来ます。小説はあるべき姿が常にあるわけではなく、作家が常に新しいあるべき姿を提示していくものだろうと思いますが、恩田さんは今回小説の新しいあるべき姿を我々に読ませてくださったと思います」と述べた。

しんせかい(山下 澄人)新潮社
しんせかい
山下 澄人
新潮社
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山下氏は自分でも「しんせかい」の選評をスマートフォンで書いてきたと言って、「なんだかよくわからないままに読みはした。箇所箇所笑いもした。つかみかかられるようなものはない。以上。と言いたいが、しかしぼんやりと残るこの感触は何だ、とは思う。ここを私はつかめないし、つかまえられない。読めていないのかもしれない。そういう意味ではいやな小説だ。面白いのかと聞かれれば「うーん」と言い、面白くなかったのかと聞かれれば、やっぱり「うーん」と言い、その日の虫の居所具合によるけれど、居所が良ければ、なんか面白いような気もすると答えるかもしれない。芥川賞にはぼくは推さない(笑)」と読み上げ、「小説を書く人が誰かの書いた小説を選評するというのは大変な作業で、小説で晒されるのとは違うかたちで晒されるわけで、その選評を読んでど素人がこいつは分かってないとか、こいつは読めているとかいうわけで。なんていうか……どうもありがとうございました(笑)」と挨拶した。

恩田氏はやはりメモを読みながら「最近になって考えるのは、私の仕事は長距離列車を運転するのに似ているなということです。小説家はとにかくこつこつ一枚ずつ書いていくしかない地味で孤独な仕事です。運転席にはたった一人しかいない。でもそれを毎日続けていくと、線となって一冊の本になる。本の刊行はローカル駅みたいなもので、ちょっと止まって一瞬だけ周りを見る暇はあるけど、すぐにまた走り出さなければいけない。その繰り返しでこれまでやってきました。それに対して文学賞はターミナル駅みたいなものだと思います。少し長い時間止まっていて周りの景色を見る余裕もできて、ああこんなところまで来たんだとふと思う。噂には聞いておりましたが、直木賞は想像以上に大きなターミナル駅でした。ずいぶん遠くまで来たな、いままでのルートは間違いじゃなかったんだと思いました。これからももっと遠いところまで、見たことのない景色が見えるところまでがんばって走っていきたいと思います。もちろん列車は運転手だけでは走れません。これまで長い間一緒に走ってくれて同じ道のりを共有してくれた皆さんに深く感謝しております」と語った。
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2017年3月3日 新聞掲載(第3179号)
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