グリム童話と森 ドイツ環境意識を育んだ「森は私たちのもの」の伝統 / 森 涼子(築地書館)ドイツ人にとっての森の意味  歴史と文化を軸に考察し、探求する|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年3月3日

ドイツ人にとっての森の意味 
歴史と文化を軸に考察し、探求する

グリム童話と森 ドイツ環境意識を育んだ「森は私たちのもの」の伝統
出版社:築地書館
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ドイツの森と言えば、シュヴァルツヴァルトと呼ばれる「黒い森」が有名だ。植林されたドイツトウヒの森であり、暗く沈んだ色合いに見えることから、そう呼ばれている。

森は、暖房や建物に必要な木材を提供してくれると同時に、森と隣り合って暮らす人々にとっては精神の拠り所でもある。

本書は、ドイツ人にとっての森の意味を、ドイツの歴史と文化を軸に考察したものだ。

ドイツの森林面積は、国土の三〇パーセントほどだ。日本は、六八パーセントもあるから、それほど森が多いというわけではない。しかも、日本では植林された人工林の他、天然林も多い。

しかし、ドイツの森の多くは、木材を供給するためのものだ。とくにドイツで本格的な産業革命が始まった一九世紀半ばには伐採しすぎて森が絶滅の危機に瀕した。その反省から、ドイツ独自の森林管理システムと技術が生まれ、持続可能な森づくりを現在も続けている。

そのドイツの森も、一九八〇年代に危機的な事態に直面した。「森の死」と呼ばれている。主な原因は、工業化による酸性雨だった。酸性雨によって多くの木々が立ち枯れをおこした。

この出来事はドイツ人を大きく揺り動かし、改善すべく、エコロジー運動が広がった。そして、今世紀初めには、森の死を食い止めることに成功したという。

著者は、このエピソードから書き始め、ドイツ人にとっての森の意味の探求に向かう。

一つの切り口が、グリム童話だ。グリム童話は、一八一二年~一八五七年に発行された、ドイツの古い民話を集めたもの。時代はフランス革命を経て、ナポレオンが登場し、ドイツを脅かした時代だ。その結果、ドイツでは、ナショナリズムの気運がたかまり、その精神的基盤として文学・美術・音楽におけるロマン主義運動が広がっていった。

このロマン主義を種として、ドイツ国民の歴史的継続性への希求となり、やがてナチズムへとつながっていく。ナチスは、森を保護し、森の永続性を民族の永続性の象徴としようとした。

ドイツ人にとっての森は、日本人にとっての「橋」のようなものであろうか。保田与重郎の描いた「日本の橋」のように、橋の向こうの世界、それは彼岸なのか、それとも遠い歴史のかなたにある日本人共通の思いなのか、そのような古典的郷愁を漂わせて、川にかかる名もない橋。

ドイツ人にとっての森は、心の拠り所だ。ある時は、心安らぐ場所であり、またあるときは、敵である獣や、刑罰を与える役人が支配する場所でもあった。

そして現在は、二〇世紀後半の工業化による荒廃を克服し、あらたな森として蘇生している。

フォルクスワーゲンの排ガス偽装事件もあり、ドイツも「資本」のパワーでしばしばへこたれそうになっている。しかし、森を愛する心があれば、ドイツも、そして日本も、まだまだ捨てたものではない。

森を知ることの意味を「知る」という意味で良い本に出合えたと思う。

この記事の中でご紹介した本
グリム童話と森 ドイツ環境意識を育んだ「森は私たちのもの」の伝統/築地書館
グリム童話と森 ドイツ環境意識を育んだ「森は私たちのもの」の伝統
著 者:森 涼子
出版社:築地書館
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年3月3日 新聞掲載(第3179号)
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