連続討議「文系学部解体―大学の未来3」室井尚・ハヤシザキカズヒコ なぜ誰も声を上げないのか/なぜ伝わらないのか?(9)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

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文系学部解体-大学の未来
2017年3月10日

連続討議「文系学部解体―大学の未来3」室井尚・ハヤシザキカズヒコ
なぜ誰も声を上げないのか/なぜ伝わらないのか?(9)

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ストも出来ない社会 理念より世間体?

ハヤシザキ
かつてイギリスに留学していたことがあり、今もよく訪れるんですが、デモをやるとなると、すぐ五万人、十万人の規模で人が集まるんですよね。日系ブラジル人の調査をしているのでブラジルにも、度々行きます。ブラジルでは、今年の二月に、公立大学教員が予算削減に抗議して、全国ストライキに突入し、授業が三ヶ月ぐらい開かれなかった。それが普通の社会で、学生も支持している。僕もそうですが、ブラジル人はわりと気楽で、何をやってもいいんだという感じで、デモに来るんですよね。おそらく日本では、全国でストライキを起こそうとしても、難しいでしょう。でも、それは日本の特殊な事情であることを理解する必要はあると思いますね。室井さんも言われたように、閉塞感があって、声を上げづらい。声を上げても聞いてくれない。たとえ上げている人がいたとしても、馬鹿にする。反対意見を潰そうとする。今はちょこちょこデモがありますが、それでもまだまだ少数です。そんなストもできない社会というのは、民主主義社会としては異常な民主主義だということは理解しておかないといけないと思いますね。

それと、今の室井さんの話に応えるとすると、確かに大学はネットの攻撃に非常に弱いと、僕も思います。それがなぜかを考える必要がある。そんなに世間体を気にしてどうしようというのか。大学には教育理念があって、その教育目標に適う人間を育てていればいいはずなんですよ。理念より世間体にしたがう学問の府ってなんなんですかね。僕が大学の長の立場だったら、たとえ何があろうと、業務妨害するなと、愛国ツイッターたちに対抗しますよ。うちの大学は、まったく反対の立場を取った。ただ単に愛国ツイッターによる嫌がらせに打たれるがままだったわけです。そして愛国ツイッターに言われるがままにわたしを処分して、彼らを納得させようとしたんですね。
室井
ただ、今はどこの大学も、大学教員の言動に対するクレームがあって、クレーム処理で苦労してますよね。うちの大学だってそうです。幸いにも、「こんな教授をやめさせろ」という抗議があっても、今のところ、その報告が各人に知らせられるだけで済んでいます。因みに、一昨日早朝、僕は学長に呼び出されて、厳重注意を受けました。夏休み中、大学のグランドでドローンを操縦していたら、調子に乗って高く飛ばし過ぎて、隣の敷地の老人ホームの駐車場に落下させてしまった。もちろん操縦不能になっても、墜落するのではなく、ゆっくり不時着するように設計されています。それでも、五十人ぐらいの入居者が集まって来て、大騒ぎになってしまった。警察に通報されて、保土ヶ谷警察署管轄で初めてのドローン落下事件だったこともあり、テロの可能性が疑われ、十名以上の警官が駆けつけたわけです。「すいません、私です」と正直に申し出ると、そのまま任意同行されて、二時間取調室で尋問を受けました。その後二回取り調べを受けて、厳密には航空法違反になるんですが、犯罪性がないということで無罪放免されました。老人ホームには早速謝りにいって問題はありませんでした。しかし学長からは、「大学の名誉を著しく傷つける可能性があった」ということで、厳重注意された。こちらに落ち度がありますから、もちろん平謝りしましたが、その時こう思ったんですよ。個人よりも大学の名誉が傷つくことがまずいのかと。多分、ハヤシザキさんを処分した学長も、同じだと思うんですよね。それは全国の大学一緒でしょう。従軍慰安婦問題で虚偽報道をしたと言われて、朝日新聞のOBたちの務めている大学に抗議の声が押し寄せた事件もありましたよね。結果的に、非常勤講師はクビになり、専任は依願退職に追い込まれた。そんなことを考えると、外部からの圧力に大学はすごく弱い。学長にしても、責任が問われるから、なるべく問題が生じないように対処する。僕がこれまで辞めないでいられたのは奇跡的なことだと思いますよ。ここがいい大学だからでしょうね。
2017年3月10日 新聞掲載(第3180号)
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