異なる背景を持つ複数愛者(ポリアモリスト)たちが主人公
愛の根幹を問う書き下ろし長編

奥田亜希子氏インタビュー

『愛の色いろ』(中央公論新社)刊行を機に

作家の奥田亜希子さんが複数愛(ポリアモリー)をテーマにした書き下ろし長編『愛の色いろ』(中央公論新社)を刊行した。奥田さんがこの物語の執筆を始めたのは、三年前。複数愛の存在を知った当初は、「愛し方の性質が同じ人たちの、閉じた世界の話」と思っていたという。

「複数愛者(ポリアモリスト)とは、嫉妬心なく、複数の相手を愛する人たちだと想像していました。でも参考文献を読むと、実際は少し違っていた。嫉妬心がある複数愛者の人もいれば、多人数を好きになる感覚が無かった人が、「やってみよう」と挑戦した結果、複数愛者となることもある。その割合が思っていたより高いことが不思議で、このテーマで書こうと思ったんです。

複数愛者は、コミュニケーションをとても大切にするんですね。言葉を交わしながら、複数人を誠実に愛する。これは愛の根幹でもあると、私は考えています。例えば、二人以上の子どもを持つ親の中には、それぞれに対して百パーセントの愛情を向けられる方もいますよね。家族愛であれば、いくつも抱えられるんです。恋愛と家族愛は別物ですが、人には少しずつ複数愛者的な感覚があるはずです。そういった部分も意識しながら書きました」。

複数愛者たちが集う家を描くにあたり、奥田さんは登場人物たちの語りを章別にまとめず、交互に入れ替えて物語を作っている。その理由を次のように語った。

「複数愛を語るためには、色々な視点が必要だと思いました。生育環境によって複数愛に繋がる影響を受けた伍郎、生まれついて複数愛者の性質を持つ黎子、離婚を機に複数愛に挑戦してみようと思った良成、好きな人が複数愛者だったからその世界に入らざるを得なかった千瀬。異なるバックボーンを持つ人たちの比重が等しくなるよう、気をつけました」。

彼らの暮らすシェアハウスに、感情を色で示す機能を持つロボット「プライム」のロクロウがやって来ることで、物語は大きく動き始める。

「ロクロウは、複数愛者と対になる存在として登場させました。着想はペッパー君から得ています。ペッパー君のモデルの一つに、色で感情を表現する「感情マップ」を持ったものがあるんですね。そのマップについて調べたところ、「愛」を「喜び」と「信頼」の間で表現する考え方があることが分かりました。でも、人間の感情には、相反するもの、矛盾したものが混ざっているはずです。「喜びと信頼」の間だけの感情が「愛」と、簡単にまとめられるものではありません。複雑で難解な感情と、真剣に向き合う複数愛者が集う家に、人工的につくられた感情を持つものが来たときにどうなるのか。それを描きたかった」。

最後に、奥田さんはこの物語について、次のように締めくくった。

「この話は、三年前からずっと書き続けていたので、その間の私の考えや想いの変遷が反映された作品になっています。派手な話ではないかもしれませんが、私にとっては大きな一冊になったと感じています」。

★おくだ・あきこ=作家。著書に『透明人間は204号室の夢を見る』『ファミリー・レス』『五つ星をつけてよ』『リバース&リバース』など。一九八三年生。