第8回日展開幕

書家・髙木聖雨氏(日展理事)インタビュー

 明治四〇年の文展より今年で一一四年目となる日展。今年も、日本画、洋画、彫刻、工芸美術、書の五部門にわたり全国から応募された作品の入選者ならびに日展会員などの作品約三〇〇〇点が国立新美術館に一堂に会す。

 日展理事で書家の髙木聖雨氏のアトリエを訪ねた。アトリエ(道場)の書棚には参考書籍がびっしり並び、壁には書画が掛けられている。奥の部屋には悠久のときを刻む中国の青銅器が並ぶ。中国への研讃の旅は二五〇回ほど。師である青山杉雨先生と父親から本物を見て学ぶことを学び、気をもらってその中で書作を行うという髙木氏のこれまでの歩みを伺った。
≪週刊読書人2021年10月29日号掲載≫


書家の父に反抗した十八歳まで

 「僕はそもそも子供の頃から十八歳まで書道をやろうという気は全くなかったんです」。かなの大家である髙木聖鶴さんを父親にもつ先生の第一声だった。  「父は書に命を懸けていた人で、昼間は祖父がつくった証券会社で仕事をし、五時に帰って食事をしたら夜の二時三時まで部屋から出てこない。ずっと書を書いたり本を読んだりという生活でした」。幼い頃から両親と出かけた記憶もなければ父親との会話もなく、一人っ子だったが毛嫌いしていたという。  反発心から高校時代はサラリーマンをめざしたが大学に一浪。「学力も伸びず考えた末、父親に『書道でもやろうかな』と言ったんです。そしたら『けっこうです。やらなくていい』とぴしゃりと言われた。  その後叔母から、父は『書道でものデモ」をつけたのが、許せない。『ほんとにやるならデモを撤回しなさい』と言われ、改めて、父に『今後書道をやっていきたいと思うんでどうですか』と言ったら『やるんだったらどうぞ、手助けはしない』と。父親としてはまだ信じられない状態だったのでしょう。書道が最も盛んな大東文化大学に入らせていただきました」。  岡山・総社市から東京へ出て初めての一人暮らし。大学に入ると、各県で名をなした高校生ばかりが集まっていた。書道用語も全く知らず友達に聞くのも恥ずかしい状態で、実家に電話を入れて、半切や落款の意味を聞いたのが書道についての初めての父との会話だった。  それまでは父の部屋には一切入らず道具も見たことがなかったが、父は本物主義で、平安時代の古筆などを集め、勉強していた。今になって素晴らしいと思う。亡くなった後、平安から江戸までの古筆コレクションを東京国立博物館と九州国立博物館に一〇〇点ほど寄贈されたという。<つづく>

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★たかき・せいう=一九四九年、岡山県生まれ。青山杉雨、成瀬映山に師事。一九七三年、大東文化大学卒業。一九七四年、第6回日展初入選。一九八九年、第21回日展「天馬」により特選受賞。一九九三年、第25回日展「建始」により特選受賞。二〇〇六年、第38回日展「協穆」により日展会員賞受賞。二〇一五年、改組 新 第2回日展「駿歩」により文部科学大臣賞受賞。二〇一七年、改組 新 第3回日展出品作「協戮」により恩賜賞・日本芸術院賞受賞。現在、日展理事、日本芸術院会員、謙慎書道会理事長、全国書美術振興会理事長、大東文化大学名誉教授。

★第8回日展
▽期間…10月29日(金)~11月21日(日)
▽開館時間…午前10時~午後6時(入館は5時30分まで)
▽休館日…火曜日
▽会場…国立新美術館(東京メトロ千代田線乃木坂駅直結、大江戸線六本木駅徒歩約4分)
▽入場料…一般1300円/トワイライトチケット(午後4時~6時)一般400円
▽お問い合わせ…03-3823-5701

※東京展の後、京都、名古屋、大阪、安曇野、金沢に巡回予定