いつでも、どこでも、読みたい本を読める社会に

鼎談=角川歴彦×高井昌史×野間省伸

日本電子図書館サービス(JDLS)「LibrariE」を中心に



 図書館サービスにおいて、電子書籍の提供がますます重要性を高めている。それを支援する仕組みが、日本電子図書館サービス(JDLS)のLibrariE(ライブラリエ)だ。システムはクラウドコンピューティングで構築されているため、ネット環境があれば簡単な手続きで即導入可能で、利用者にも図書館にも使いやすい。現在、導入館は四九〇館(大学図書館一三二館、学校図書館一二八館、公共図書館二二三館、十月末現在)。コロナ禍の影響もあり、勢いを増す電子図書館サービスについて、その課題と可能性、また出版業界の置かれた現状と未来を、KADOKAWA取締役会長の角川歴彦氏、紀伊國屋書店代表取締役会長兼社長の高井昌史氏、講談社代表取締役社長の野間省伸氏にお話しいただいた。加えてJDLSの代表取締役社長二俣富士雄氏にも、現場からの声をお届けいただいた。(編集部)
≪週刊読書人2021年11月12日号掲載≫


国産の電子図書館サービス立ち上げの意図

 角川 二〇一三年の東京国際ブックフェアで、「出版業界のトランスフォーメーション」というタイトルの講演をしました。書籍の電子化が始まったばかりの頃でしたが、この先、図書館でも電子書籍の貸し出しを進めていく必要があるだろうと、図書館向け電子書籍貸し出しサービス推進の宣言をして、高井さんと野間さんを指名し、壇上に上げてしまったんです。JDLSはそこから始まったわけですよね。やや強引なことをしましたが、楽しかったですね。

 高井 そうですね。スピーディで間違いない動きだったと思います。いずれ電子書籍の時代がくることは分かっていましたから。

 野間 角川さんと、今は無きグランドパレスの一階でお茶をしながら、話をしたのを覚えています。電子図書館プラットフォーム世界最大手のOverDriveが、日本の出版市場にも参入するだろうと予想して、至急体勢を整えねばと考えていました。その根っこにあったのは出版の未来を見据えた危機意識でした。ただでさえAmazonやApple等の黒船が、国内で続々とシェアを広げていましたから。

 角川 もう少し遡ると、縦組みの日本語表記が可能となったEPUB3が電子書籍の世界標準フォーマットとして登録され、国内の出版社が電子書籍の制作をEPUB3で統一しようと決めたのは画期的でした。それまではフォーマットがバラバラで、四種類ぐらいありましたよね。その当時はフォーマットの使用料が必要で、作成ツールのライセンスにまで一つ一つお金を払っていたら、とても電子書籍化は進まない。そういう中で尽力してくれた会社があった。

 野間 電子書籍出版のボイジャーですね。

 角川 自社で持っていたフォーマットを反故にして、EPUB3の一本化に動き、電子書籍化を躍進させた。この日本の出版界の動きは、革新的と言えるものでした。

 野間 EPUB3を取り入れたのは、アジア圏で日本が一番早かったですからね。

 角川 韓国も台湾もフォーマットがバラバラの中、日本は瞬時に一本化したものだから、その年の内にGoogle、Apple、Kobo、Amazon、全てが契約を持ちかけてきましたよ。その頃アメリカの電子図書館マーケットを占有していたOverDriveは、Amazonの子会社になるのではないかと言われていました。そうなったら日本の電子書籍のマーケットもAmazonの支配下に入って、図書館市場まで牛耳られたらどうなってしまうのか。そういう危機意識を我々は共有していましたよね。

 高井 そのとき頭をよぎったことは、また外資にやられてしまうのかと。紀伊國屋書店も電子書籍アプリ「Kinoppy」を始めたところでしたが、AmazonのKindleが強かった。アメリカの図書館市場では、圧倒的にOverDriveが強いのも分かっていましたから、外資ではなく何とか日本の会社でやらなければいけない、という気持ちが大きかったですね。

 角川 OverDriveはこれがまた売上の四〇%を手数料として取ると言うんですよ。AppleやGoogleが売上の三〇%を取るのと似た仕組みですよね。これではいけない、至急、国産の電子図書館サービス会社を作らなければと、危機感をもって野間さんとグランドパレスでお話しした次第です。そして二〇一五年四月に、電子図書館サービス「LibrariE」をリリースすることになる。

 高井 私の方は、角川さんから話があって、一も二もなくやりましょうと。

 角川 黒船に対する危機感。正直に言って、それが一番大きかった。「業界あげて」となると百家争鳴になりますから、講談社と紀伊國屋書店に声をかけて、とにかく設立しましょう、ということでした。

 野間 JDLSを設立した二〇一三年は、電子書籍市場も立ち上がったばかりで規模が小さく、当時はまだ電子書籍に積極的ではない出版社が大多数だったと思います。

 角川 二の足を踏んでいる版元が多かったね。ですからスピード感を重視して、まずこの三社でやろうじゃないかということになった。

 高井 そういう中、アメリカでOverDriveを楽天が買収します。(その後二〇二〇年に米投資会社KKR傘下のAragorn Parent社へ譲渡)

 角川 驚きましたね。

 野間 びっくりしましたが、楽天はKoboと絡めたビジネスの思惑があったと思います。楽天が買ってくれて、Amazonでなくてよかったというのが、正直な気持ちでした。<つづく>

本編のつづきは以下で読めます


★かどかわ・つぐひこ=株式会社KADOKAWA取締役会長。一九四三年生。

★たかい・まさし=株式会社紀伊國屋書店代表取締役会長兼社長。一九四七年生。

★のま・よしのぶ=株式会社講談社代表取締役社長。日本電子書籍出版社協会代表理事。一九六九年生。