絵画の歴史 洞窟壁画からiPadまで 書評|デイヴィッド・ホックニー(青幻舎)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年3月24日 / 新聞掲載日:2017年3月24日(第3182号)

絵画の歴史 洞窟壁画からiPadまで 書評
「画像」という観点から絵画史と写真史を統合 
センセーションを起こした前著『秘密の知識』から更に

絵画の歴史 洞窟壁画からiPadまで
出版社:青幻舎
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古今東西の名画や写真が満載の大型カラー本である。美術家のデイヴィッド・ホックニーと美術評論家のマーティン・ゲイフォードの対談で全篇構成されている。博識な観察者である二人に導かれながら、豊富な図版を能動的に鑑賞し楽しむ読書体験となる。とはいえ前著『秘密の知識』で、名だたる絵画史の巨匠達がいかに光学機器や専用の道具をこっそり使ってきたかを暴き、一大センセーションを巻き起こしたホックニーである。更なる知見を加えた本書においても、太古のプラトンの「洞窟の譬え」から今日のインターネット画像まで、一貫して「画像は信じられるか」という疑念を軸に検証されている。遠近法も写真も真実ではないのだ。読者の知的好奇心は、かき立てられっぱなしである。

さて、邦題『絵画の歴史』の「絵画」は英語の「ピクチュア」の訳である。一方、本文に頻出する「画像」の語も「ピクチュア」の訳である(はずである。評者は原著で確認していないが、そう確信する理由があり以下の論を進める)。つまりこの本は、題名も本文も「ピクチュアの歴史」についての書なのだ。それが証拠に、絵画も写真も映画も同じ「ピクチュア」の一語で表せることから本書を発想したと、ホックニーが明かしている。ちなみに映画は元々英国では「ピクチュア」で、「ムービー」と「シネマ」は米国から後から入ってきた語とのこと。そしてさらに、現実の三次元世界を二次元に写し取ろうとしたものが本書における「ピクチュア」であると定義し、すなわち抽象絵画を本書で扱う範囲から駆逐する。こうして絵具で描かれた絵画やペンで描かれた素描、撮影された写真もしくは映画のシーンと、印刷物さらにはテレビやコンピュータ等の画面までを区別することなく、「ピクチュア」の一語で括ることによって、単一のピクチュア史(=画像史)が書けるはずであると提唱、本書をその最初の実践と自負するのだ。

これは、批評家クレメント・グリーンバーグが主導した20世紀のフォーマリズムが、媒体(メディウム)をジャンルのアイデンティティとすることによって絵画と写真を分断し、絵画史の帰結を抽象絵画としたことに対するアンチ・テーゼとなる。すなわち批評家ロザリンド・クラウスの言うポスト・メディウムの試みとして、21世紀の思潮に合致する。すると、絵画史にとって写真の発明は青天の霹靂だったわけでは決してなく、むしろ絵画史における必然から「絵画の子供」として写真発明がなされたのだという本書の主張も、説得力を増す。

評者はさらに、美術家としてのホックニーをそこに重ねたい。ミニマリズムという抽象絵画全盛の1970年代に具象画家としてデビュー、以来、主要な美術動向から絶妙な距離を保ちつつ、一貫して魅力的な具象絵画を描き続けている。その一方で、80年代に多数の写真を組み合わせてピカソの多視点絵画のように構成した、写真史を揺るがす重要で興味深いシリーズを展開した。評者にとってホックニーはあくまで画家だが、もし彼が画家であるという予備知識を持たないまま、最重要の写真家は誰かと問われたら、ホックニーと答えかねないような立ち位置なのである。すなわち画家にとって写真は余技、あるいはその逆という通常のフォーマリスティックな視点からは、本来は等価で単一の探究であるはずのホックニーの絵画と写真の仕事は、不当に低くしか評価できないのだ。

つまり本書は、何よりもまずホックニーの自作品解説のために上梓されたはずだ。絵画と写真に跨がる仕事の全体を美術史上に、より正当に高く価値づけるために、ピクチュア史という概念が必須である。ところがそうすると、一つ謎が生じる。ホックニーの新旧の絵画作品が随所に図版として掲載されているのに、80年代の写真シリーズが無い。どういうことか。ひょっとすると、そこにフォーカスした次の著書が構想準備中なのだろうか。(木下哲夫訳)
この記事の中でご紹介した本
絵画の歴史 洞窟壁画からiPadまで/青幻舎
絵画の歴史 洞窟壁画からiPadまで
著 者:デイヴィッド・ホックニー、マーティン・ゲイフォード
出版社:青幻舎
以下のオンライン書店でご購入できます
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