実相寺昭雄才気の伽藍 書評|樋口 尚文(アルファベータブックス)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年3月24日 / 新聞掲載日:2017年3月24日(第3182号)

実相寺昭雄才気の伽藍 書評
実相寺ワールドを再構築 
じつにフェティッシュでユカイな書物

実相寺昭雄才気の伽藍
出版社:アルファベータブックス
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「才気」という言葉が似合う監督であった。実相寺昭雄――その作品には、流麗な横移動ショット/大胆な逆光/手前に遮蔽物を大きく入れ込んだナメの構図など、まさに才気走った映像が伴われている。「鬼才」「異端」「邪道」と称されながら多くのファンを獲得し、映画/テレビドラマ/CM/クラシック演出/アダルトビデオ/小説/エッセイと、あまりに幅広く活躍した。

著者の樋口尚文は、実相寺ワールドを“伽藍”に見立てて再構築する。まるでジャンルごとに区切られた観光名所、いちおうのルートはあるが、どこからでも楽しめてグルッと循環する造りだ。1960年代後半、『ウルトラマン』『ウルトラセブン』『怪奇大作戦』といった円谷プロの特撮テレビ映画で実相寺作品に魅入られた樋口少年は、やがて大人になり実相寺と交流をもち、10年ぶりの新作映画『帝都物語』(88年)から批評を書きつづける。

映画評論家/映画監督とふたつの肩書きをもつ樋口は、広告代理店のクリエイティブ・ディレクターとしてCM制作に関わってきた。特撮を中心に著書は多く、ジャンル黎明期の挑戦を描いた『テレビヒーローの創造』(筑摩書房)や17年に及ぶ『キネマ旬報』の連載をまとめた『テレビ・トラベラー 昭和・平成テレビドラマ批評大全』(国書刊行会)では、映画/テレビの相関性を検証……そのスマートな執念と情熱が『才気の伽藍』にも発揮されている。『黒澤明の映画術』(筑摩書房)のようにテクニカルな側面を解き明かしながら。

2016年、実相寺の没後10年に際して出た本書。その2年前には『別冊映画秘宝 実相寺昭雄研究読本』(洋泉社)が刊行されている。37人の執筆陣のうち、樋口はCMの項で実相寺との思い出を披露。じつは評者も『春への憧れ』『東京幻夢』のレビューを担当し、映画/テレビの詳細なデータが載るのを知って「せっかくの機会なので」とCMのリスト作りに協力した。大学卒業後まもなく、勤め先の資料室で資生堂の3分間CM「色」(79年/出演:薬師丸ひろ子)に出会い、ふたたび高まった実相寺熱を思い出しつつ……おっと、書評が回ってきたうれしさから、つい自分語りをしてしまった。

樋口は先行する研究書に敬意を表しながら、「よくわからない多彩で胡乱な才人」として実相寺が語り継がれるのを危ぶみ、単著に挑んだ。「そんな難儀な書物は別に私でなくても誰か最適な書き手が書いてくれればいいのだと思っていた」とあるが、謙遜の裏にはキャリアに支えられた自信がうかがえる。

実際、残された大量の資料に溺れることなく、明晰な文章で「才気」をまとめ、弱点をも指摘。広角レンズでやや俯瞰から全体を見渡すかのように――。「心ならずも」の連続でTBSに入社した実相寺が、テレビ(電送)と映画(光学)の要素が相まった“テレビ映画”の作り手として独自のセンスを確立する起点は、類書にない精緻な設計が施されている。

映画本らしく図版だって豊富、わざわざ絵コンテや日記に影を落とした技巧が楽しい(撮影は実相寺組の中堀正夫)。「本書自体が実相寺映画の延長」とあるのも大げさではない。じつにフェティッシュでユカイな書物だ。
この記事の中でご紹介した本
実相寺昭雄才気の伽藍/アルファベータブックス
実相寺昭雄才気の伽藍
著 者:樋口 尚文
出版社:アルファベータブックス
以下のオンライン書店でご購入できます
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