自分とは違った人たちとどう向き合うか 難民問題から考える 書評|ジグムント・バウマン(青土社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 読書人紙面掲載 書評
  4. 社会・政治
  5. 社会全般
  6. 自分とは違った人たちとどう向き合うか 難民問題から考えるの書評
読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年4月10日 / 新聞掲載日:2017年4月7日(第3184号)

自分とは違った人たちとどう向き合うか 難民問題から考える 書評
社会の分断を乗り越える道を探る 
大規模な政治的地殻変動を検討する上で、重要な視座を提供

自分とは違った人たちとどう向き合うか 難民問題から考える
著 者:ジグムント・バウマン
出版社:青土社
このエントリーをはてなブックマークに追加
本書は二〇一七年一月に惜しまれつつも亡くなったジグムント・バウマンの最晩年の著作の翻訳である。液状化、個人化など、さまざまな概念を用いて、共同的な社会の動揺を指摘してきた著者が、移民・難民問題を中心に、社会の分断を乗り越える道を探ってゆく。

本書の大部分にわたって示されるのは、人びとが移民・難民を「見知らぬ人」として排除してゆく様相と、為政者がそれを利用するありさまである。

本文一一七ページという限られた紙幅のなかで、バウマンが取り出した分断の要素はじつに多岐にわたる。以下、簡単に振り返っておこう。

個人化社会のなかで、人びとはリスクに対し、個人的に対処・解決することを求められる。背負わされたリスクを重荷に感じ、不安視する人びとは、「見知らぬ人」である移民・難民をリスク要因とみなし恐怖する。

それと同時に難民は、幸福に暮らす「内側の人びと」に、自らの深刻な事態をさらすことで、内側の幸福のもろさを惹起させる。幸福の脆弱性の認識は、難民への拒否感に接続されてゆく。

インターネットの普及は、オフラインとオンラインという二つの世界を生み出す。自らの行く先をコントロールできるオンラインの世界では、異なる意見を排除することも容易である。意見の単純化は、道徳的な盲目をもたらし、移民問題に対する倫理的対処を難しくさせる。

こうした要素を巧妙に利用しているのが、時の為政者である。彼(女)らは、自国内のさまざまな不安に対処できない自らの無能さから目を背かせるために、「見知らぬ人」をスケープゴートとして利用する。国境線の強化、難民規制に見られる「安全保障化」政策は、その典型である。さまざまな不安から生じる恐怖心は、テロ組織という具体的な敵と結びつけられ、単純化される。「手品師のトリック」を使って、人びとの不安を回収した為政者は、“頼もしいリーダー”としての地位を獲得する。

その一方で、テロリストたちも「安全保障化」政策を利用する。「内側の人びと」に排除された移民・難民は、聖戦の構図へと導かれてゆく。かくして社会は分断を加速させる。

以上のように、本書では、非常に多角的な視点から、移民・難民の排除、社会の分断の問題が検討されている。しかしながら、本書で展開される議論には、表現を変えた重複や論理的飛躍がいくつか存在する。それゆえ、本書じたいに、どちらかというと思考の羅列といった感があるのも否めない。また、ところどころ、ヨーロッパ知識人の文章にありがちな、冗長な比喩がちりばめられ、読みにくい箇所もある。

しかしながら、その点を差し引いても、本書は昨年以降、ヨーロッパ、アメリカで発生した大規模な政治的地殻変動を検討する上で、重要な視座を提供してくれる。また、人びとの不安心理を利用し、「安全保障化」政策を通じて支持を獲得する政治姿勢は、欧米以外の国々にも見られるものだ。したがって、本書で提示された「分断」の問題は、現代社会を生きる人びとが共通して対処すべき性質をもつと言えよう。

さて、それではバウマンは、「見知らぬ人」への不安、それに呼応する「安全保障化」政策によって生まれた「分断」の解消策として、いかなる方策を提示するのだろうか。じつのところ、本書において彼が提示した方策は、わたしにとって“やや拍子抜けする”ものだった。この点については、本稿では触れないので、それぞれ確認して欲しい。分断の打開策について、わたしは、鬼籍に入ったバウマンがわれわれに残した宿題としてとらえておきたい。(伊藤茂訳)
この記事の中でご紹介した本
自分とは違った人たちとどう向き合うか 難民問題から考える/青土社
自分とは違った人たちとどう向き合うか 難民問題から考える
著 者:ジグムント・バウマン
出版社:青土社
以下のオンライン書店でご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
社会・政治 > 社会全般関連記事
社会全般の関連記事をもっと見る >