フジタの白鳥 画家藤田嗣治の舞台美術鳥 書評|佐野 勝也(エディマン)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年4月10日 / 新聞掲載日:2017年4月7日(第3184号)

フジタの白鳥 画家藤田嗣治の舞台美術鳥 書評
わずかな痕跡をたぐり寄せ 藤田の埋もれた側面に光を 

フジタの白鳥 画家藤田嗣治の舞台美術鳥
著 者:佐野 勝也
出版社:エディマン
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藤田嗣治が舞台美術も手がけていた。しかも本書で特定されているものだけで九本もある。ただし、舞台美術というジャンルの特殊性であるが、レパートリーに入って再演でもされない限り、舞台が終われば美術もなくなる。写真や装置図がどこまで残っているか、ここで取り上げられる舞台美術もすべてに十分な資料が残っているわけではない。

藤田の舞台美術もしかりだ。本書では、写真や記録として残っていた資料など、わずかな痕跡をたぐり寄せながら、藤田の華やかな活動のなかで埋もれている側面に光をあてる。いや、著者が目指そうとしたことはさらに大きい。舞台美術を手がけたという経験が、藤田の絵画にも影響を与えたのではないか。さらには藤田研究にも、舞台美術の重要性を認知させようとする。

少なくとも藤田がその活動の初発から、舞台美術と深いかかわりを持っていたことはやはり無視できない。それは日本の舞台美術の黎明期とも関係する。舞台美術家のパイオニアの一人である田中良などと東京美術学校の同級生で、帝国劇場で一緒に背景画を描くのを手伝っていたこと。もちろん、舞台の装置図全体を手がけているわけではないので、舞台美術家とまではなかなか言えないが、その後手がける舞台美術も単なる書き割りを頼まれて描くだけではなかったことがわかる。

また、舞台の歴史に名を刻む作品も手がけている。本書でもっとも重きをなす戦後バレエ史の出立として足跡を刻む『白鳥の湖』。これはまさに著者の発見として、聞き書きなどをはじめとして、刊行されていない資料を手に入れて、その状況を追ったものだ。また、オペラ劇場として世界的にもっとも伝統あるミラノのスカラ座での『マダム・バラフライ』。この二つは本書でも、冒頭と終章に大きく取り上げられる。

また、一口に舞台美術といっても手がけたジャンルは多岐にわたる。バレエ、オペラ、舞踊、新派、能などなど。場所も藤田の活動ならではとして、日本とフランス、イタリアなど幅広い。それは、藤田の教養の広さであり、頼まれて舞台美術の仕事をしただけでないことがわかる。ただ、大きな作品以外の、他の作品も同様に一章ずつ割り振られるのだが、資料の残り具合によって長さも論の深度も違う。本書は章立てや造本を含めて体裁がきれいに整えられているが、著者が出版前に逝去したこともあってか、通読しているとそのバランスの悪さはどうしても残る。また、長い論となっている上記の二作品においても、やはり藤田の活動や当時の状況、作品の背景、そして著者の熱い思いを投影して藤田の考え、もしくは舞台美術が藤田にどのような影響を与えたのか、想像力で補完する部分も多い。

博士論文がもととなっているが、単なる研究との違いはここにある。研究ならばもう少し抑えた書き方をするだろう。だが、著者の対象に対する情熱が、所々であらわれる。それは、この研究にかけた思いが伝わる部分でもある。いわば、藤田の舞台美術を通して、著者の顔が浮かぶようなのだ。だからこそ、著者が亡くなってしまったことが惜しまれる。おそらく、藤田の舞台美術を発見して論じるという作業は、まだまだ著者にとって始まったばかりだったのではないか。
この記事の中でご紹介した本
フジタの白鳥 画家藤田嗣治の舞台美術鳥/エディマン
フジタの白鳥 画家藤田嗣治の舞台美術鳥
著 者:佐野 勝也
出版社:エディマン
以下のオンライン書店でご購入できます
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