黒島の女たち 書評|城戸 久枝(文藝春秋)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年4月10日 / 新聞掲載日:2017年4月7日(第3184号)

黒島の女たち 書評
島の物語を語り続ける人びとの姿が魅力的

黒島の女たち
著 者:城戸 久枝
出版社:文藝春秋
このエントリーをはてなブックマークに追加
黒島の女たち(城戸 久枝)文藝春秋
黒島の女たち
城戸 久枝
文藝春秋
  • オンライン書店で買う
敗戦直前、鹿児島から沖縄に飛び立った六人の特攻隊員が、鹿児島から五〇キロ南の孤島、黒島に不時着した。怪我をした彼らを島の娘たちが懸命に介抱したという物語に惹かれた著者は、二〇一五年五月、黒島で行われた特攻平和祈念祭に出席する。人口一七五人の島で兵士を介抱した女や老人たちに取材しながら、これまで出会ったことのない不思議な感覚が残った。そこから著者の興味は、黒島に憑かれた夫妻の物語に移行していく。

映画監督でドキュメンタリー作家の小林広司は、映画『黒島を忘れない』を制作するため島に四〇日間滞在。二〇〇四年八月、映画はテレビで放映された。しかし、それだけで終わらず、小林はさらに取材を重ねて島の物語の執筆にとりかかるが、四年後、未完成のまま四九歳で他界する。なぜ、そこまで黒島にのめりこんだのか。小林についてもっと知りたくなった著者は小林の妻ちえみを東京の自宅に訪ねる。ちえみは、夫ががんと闘いながら執筆を諦めず、力尽きて亡くなるまでの一部始終を語る。本書のテーマからすればサイドストーリーに見える壮絶な闘病と看病の日々がドキュメンタリータッチで描かれ、黒島の戦争を書き残したい小林の執念がひしひしと伝わってくる。

葬儀を終えた半年後、それまで黒島に関心がなかったちえみが、夫を支えてくれた黒島の人に会いたい思いが募り、元特攻隊員の江名武彦とともに島に行く。以後毎年、島を訪れ、江名と二人三脚で未完の遺稿に取り組む。著者の言葉によれば、ちえみは「黒島の女」になったのだ。二〇一一年、原稿完成。一四年秋、クラウドファンディングを利用して世論社から書籍『黒島を忘れない』として世に出た。

小林夫妻を始め、島外から来た人びとを優しく受け入れ、島の物語を語り続ける人びとの姿が魅力的だ。島に特攻平和観音像を建立し、九〇歳を過ぎても島に通い続け、小林夫妻の仕事を支え続けた江名武彦の姿も印象に残る。

戦争体験者が減少していくなかで、体験をどう引き継ぐかが今、問題になっている。戦争の記憶を伝えていくには、「架け橋」が必要だとする著者は、ドキュメンタリーと書籍の『黒島を忘れない』で小林夫妻が「架け橋」になり、忘れられかけていた島の記憶が記録として蘇ったとする。この論法に従えば、本書も、黒島にとり憑かれた人びとを描くことで、黒島の記憶を後世に伝える「架け橋」になったといえる。『あの戦争から遠く離れて』で大宅賞を受賞した城戸久枝のライフワークというので、期待して読み始めたが、ノンフィクションというよりルポ風エッセイで肩すかしをくった気がした。しかし、読み終わって、戦争の記憶の風化を防ぐには、重厚長大なノンフィクションもアニメもエッセイも映画も、伝承の方法はさまざまであっていいと納得した。
この記事の中でご紹介した本
黒島の女たち/文藝春秋
黒島の女たち
著 者:城戸 久枝
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
江刺 昭子 氏の関連記事
城戸 久枝 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
文化・サブカル > 文化論関連記事
文化論の関連記事をもっと見る >