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読書人紙面掲載 書評
更新日:2016年7月15日 / 新聞掲載日:2016年7月15日(第3148号)

書評
身近な都市の更新を読み解く 都市の現状を受け止め、その上で能動的なあり方を見出す


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速水氏の著作は町なかのちょっとした変化を拾い集めるのがうまい。例えば『都市と消費とディズニーの夢』(角川書店、2012年)では町なかに増えつつあるカフェ・チェーンやコイン・パーキングをショッピングモーライゼーションという言葉で読み解き、『東京どこに住む?』(朝日新聞出版、2016年)では西側郊外から職住が近接する都心東側へ居住動向が変化している様子を明らかにする。政治や経済の変化と異なり、都市の変化は何となく感じていても言語化されないまま、気づくとそれが当たり前になってしまい、記録に残ることは少ない。都市は更新され続け、逆に言えば都市は忘却されたイメージの総体としてある。速水氏の新刊『東京β 更新され続ける都市の物語』はまさにこのような都市・東京のあり方を主題にした本である。タイトルの「β」はITの世界で「試用版」を意味し、「永遠に完成しないという意味合い」が込められている。

速水氏は東京の変化がどのようにTVドラマや映画、小説、マンガなどに描かれたかに注目する。もちろんメディアから都市を読み解く試みはこれまでも様々になされてきた。しかし、本書は戦後を中心に現在も連載が続く最新の作品までを取り上げている点に特徴がある。また、東京全域というよりは象徴的な場所を切り取る構成となっている。本書の前半では湾岸が中心に扱われ、後半では東京タワーとスカイツリーという「図」としてのランドマークと、「地」としての江戸以来の水運都市としての都市構造、そして最初に鉄道が引かれた陸の玄関としての新橋と空の玄関としての羽田が扱われる。東京の変化を意識的に描いた作品や、西側郊外から発展の場が移りつつある水辺が中心に扱われている。

なかでも速水氏が注目するのが湾岸の埋め立て地である。映画『家族ゲーム』などそれまで「不安」「不穏さ」の代表として描かれてきたこの場所が、近年のマンガ『3月のライオン』に至って日常生活の舞台としてポジティブな意味を持つようになったという指摘はなるほどと思わされる。以上の氏の著作には変化の激しい都市の現状をひとまずポジティブに受け止めようとする視線が共通している。ディベロッパーによる開発やチェーン店の進出といった「都市の均質化」などと批判されがちな現象についても、まず都市の構成原理が変わりつつある現状を受け止め、その上で人々の能動的なあり方を見出そうとしているのだ。これはそうした環境のなかで生まれ育ってきた団塊ジュニア世代以降の実感にも合致するものである。

一方で大都市とはどこも更新され続けるものなのだという気もしてくる。だとすると東京ならではの特徴とは何なのだろうか。上述してきたメンタリティの形成過程や本書も注目するように現在の町並みは主に戦後に形作られたという点に(これは欧米の都市と大きく異なる点である)ヒントがあるようにも思える。評者は東京の都市史を専門とするが、本書も言及する水都としての東京や近代移行期および戦後の東京については最新の研究成果もあり、そうした学術研究とのコラボレーションも期待される。なお誤植があるのは少し気になった(例えば参考文献の拙著の表記など!)。
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