ソシオパスの告白 書評|M・E・トーマス(金剛出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年4月24日 / 新聞掲載日:2017年4月21日(第3186号)

ソシオパスの告白 書評
「告白」なのか「告解」なのか 
本書によって考えさせられる点は尽きない

ソシオパスの告白
著 者:M・E・トーマス
出版社:金剛出版
このエントリーをはてなブックマークに追加
はじめに「ソシオパス」という耳慣れない言葉について説明が必要であろう。現代の精神医学でいうところのパーソナリティ障害を総称して「サイコパス」ともいうが、その中に「反社会性パーソナリティ障害」というタイプがある。本書のタイトルにあるソシオパスとは、これを指す。しかし、自分がソシオパスと確信しているという著者は精神科医ではないため、果たして精神医学的にみても本当にそうなのかは疑問が残る。

著者M・E・トーマスは仮名であり本名ではない。三十歳の白人女性で、法科大学院を卒業して弁護士事務所に勤務した経験をもつ。モルモン教徒で独身。万引きなどの軽度な反社会的行動の経験はあるものの逮捕歴はなく、ごく一般的なスポーツ外傷以外に特別な既往歴もない。ただ、子供時代から周りの人たちとは違うという違和感が強く、いじめや偏見を受けたとの記憶をもつ。心理学の本などから自分はソシオパスではないかとの疑いをもち、やがてそう確信して二〇〇八年に匿名でブログ『ソシオパスの世界』を立ち上げたところ、数千人の同じような自己認識を持つ人々からの反応があり、一層確信を強めるとともに、「数年後に」専門家の診断を仰ぐべく心理学者のもとを訪ねて自己評価シートに記入して意見を得る。その意見書も本書に収録されているが、ソシオパスであるとの確定的な文言はない。

では、この著者は精神医学的にみて、いったいどうであるのかという疑問が生まれる。それは、とくに評者が精神科医であるからだろう。もちろん評者は著者に会ったわけではないので、あくまでも本書の記述から判断するしかないのだが、本書を通読してみると、ソシオパスというより自己愛性人格障害に近いのではないか、と思われる節がある。それは、著者が「他者への共感に欠ける」と自己評価する一方で、ブログを立ち上げたのは他人の助けになるからだとの矛盾する記述をしたり、自分が「知的」で「高度な」ソシオパスだと繰り返し述べていたりするからである。もっとも、訳者もヴェテラン精神科医であるので、「訳者あとがき」では、本書は「心理学や精神医学の学術書」ではなく「かなりフィクションが混じっている」と警告している。

しかし、そのうえでも本書が投げかけている疑問には大いに考えさせられるものがある。その一つは、これはいったい「告白(カミングアウト)」であるのか、それとも(本書の原題にある)「告解(コンフェッション)」であるのか、もし後者なら、それはキリスト教会が伝統的に行ってきた一種の心理療法であり、著者もブログやこうした著書の形で自己治療を行っているのだともいえる。そもそも精神分析は二十世紀における一種の宗教ともいえるし、宗教はいまや世界中で後退し世俗化している。

もう一つの疑問は、パーソナリティ障害も含め、なぜ精神障害では病識の欠如という事態がある一方で、自ら進んでカミングアウトするような病識の過剰という極端なアンチノミーが生じるのか、という点である。いずれにしても、本書によって考えさせられる点は尽きない。翻訳も流暢で読みやすい。(高橋祥友訳)
この記事の中でご紹介した本
ソシオパスの告白/金剛出版
ソシオパスの告白
著 者:M・E・トーマス
出版社:金剛出版
「ソシオパスの告白」は以下からご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
小俣 和一郎(おまたわいちろう)精神科医・精神医学史家
精神科医・精神医学史家、1950年東京都生まれ。1974年岩手医科大学医学部卒業、同年国立医療センター(現・国立国際医療センター)内科研修医、1975年名古屋市立大学医学部大学院入学(臨床精神医学専攻)、1980年同修了(医学博士)。 1981~83年ドイツ連邦共和国給費留学生(ミュンヘン大学精神病院)。1986年医療法人財団・大富士病院(静岡県)副院長。1990年上野メンタル・クリニック(東京都)院長、2015年退職。2002~2006年東京保険医協会理事。 主要著書:『ナチスもう一つの大罪』(1995年、人文書院)、『精神医学とナチズム』(1997年、講談社)、『精神病院の起源』(1998年、太田出版)『精神病院の起源・近代篇』(2000年、太田出版)、『近代精神医学の成立』(2002年、人文書院)『ドイツ精神病理学の戦後史』(2002年、現代書館)、『検証 人体実験』(2003年、第三文明)、『精神医学の歴史』(2005年、第三文明)、『異常とは何か』(2010年、講談社)など。共著・分担執筆:『系統看護学講座・精神保健福祉』(医学書院)、『Psychiatrie im Kulturvergleich』(VWB-Verlag)、『臨床精神医学講座』(中山書店)、『精神医学文献事典』『現代精神医学事典』(弘文堂)など。 主要翻訳書:G・セレニー『人間の暗闇』(2005年、岩波書店)、W・グリージンガー『精神病の病理と治療』(共訳、2007年、東大出版会)、J・フォン・ラング『アイヒマン調書』(2009年、岩波書店)など。
小俣 和一郎 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
社会・政治 > 社会全般関連記事
社会全般の関連記事をもっと見る >