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読書人紙面掲載 書評
更新日:2016年7月15日 / 新聞掲載日:2016年7月15日(第3148号)

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エロスという「毒―薬」 ブック・ガイドを兼ねた連作エッセー集


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美術とサブカルチャーの評論家として活躍し、近年ではギャラリストとしてもその才を発揮しつつある樋口ヒロユキ氏の三冊目の単著は、あの悪名高き十八世紀の牢獄作家マルキ・ド・サドの、悪虐と淫虐に満ちた哲学小説『ソドム百二十日』から想を得て、エロスをテーマとする百二十冊もの書籍を紹介するという試みである。その渉猟範囲は古今東西を自在に行き来し、理論書・宗教研究書から文学・美術書・漫画にまで、また人口に膾炙した名著から通好みのマイナー書籍にまで及んでいる。

一読して、通常われわれが思い浮かべる書評集というよりは、著者が知の喜びを見出した実に幅広い領域の書物に触れつつ、自らのエロスに関する持論を大変わかりやすく展開していく、いわばブック・ガイドを兼ねた連作エッセー集という印象を受けた。本文の大部分がもとはアダルト誌掲載のものであるため、おそらくはおもしろさを重視してそのような形態をとったのだろうとおぼしいが、奇抜で奇矯な淫奔の魔人・魔事象(事件)をたんに興味本位で羅列するのではなく、断罪すべきときは断罪し、警鐘を鳴らすべきときは断固とした口調を厭わない著者の姿勢には好感を抱かされる。一例を挙げるなら、エロスの原理が政治権力と結合するとき、著者はその冷徹かつ知的な嗅覚を働かせて不吉と危険の臭気を察知し、また狂信に溺れた宗派の異常にはエロスの荒廃を喝破して厳しい批判を向ける。

さらに、わが国の遊郭を扱った「第六室」と、著者の敬愛する野坂昭如にまるごと一章を捧げた「第七室」においてはエロスの悲惨と残酷を直視し、知の喜びをこえて知ることの苦悩にまで思考の触手を伸ばしていく。そして、著者はエロスの負の側面、エロスの戦慄にも大胆に切り込んでいって、ついにエロスという「毒―薬」という結論に到達するのである。エロスのエネルギーというのはあまりにも強大であるがゆえに、それが正のベクトルを志向すれば無上の至福(薬)をもたらすけれども、それが逆に負のベクトルへと傾斜したらとんでもない破滅(毒)を誘発しかねないということだろう。

さて、最後に、著者が特に小説を語る際、盛り上げるだけ盛り上げておきながら肝心のところを伏せるわけだが、そこに若干の飢餓感を覚えつつも、逆説的にそれは著者の最上のサービスと忍従して(著者もいいたいのは山々だろうから)、本書がブック・ガイドとしてもしっかり機能を果たしていると評価したい。
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