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Forget-me-not
更新日:2017年5月2日 / 新聞掲載日:2017年4月28日(第3187号)

Forget-me-not⑰

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ネパールの新聞社でインターンをしていた頃、HIVの取材で訪れた山間部の村で地域の住民たちとともに。 ⒸKeiji fujimoto
まだ初々しさの残る目の周りには喫煙と疲労でしわが寄っている。「山が好きだ」と話す男は二児の父でありHIV陽性者を支援するNGOの代表であった。小さな団体ではあったが、「これからもっと成長していくはずだ」と本人がネパール訛りのある英語でよく話をしていた。

大学を出たばかりの僕はフォトグラファーとしてはまだまだ駆け出しで、カトマンズにある新聞社でインターンとして働き始めていた。ただの若造である僕でも、アジア有数の経済大国からやって来た『ジャパニーズ』というだけで、僕を友達というネパールの地方都市に暮らす男の社会的地位を向上させるのにある程度の役割を果たしているようであった。

人身売買やHIV/エイズに関する取材で意見を求めに訪れるたび、彼は無償で宿泊させてくれ、方々の飲み屋を連れ回してくれた。お酒を飲むと決まって得意そうに自身の不倫の話を始める男はまた、真実の愛を唄うラブソングをギターで弾き語っていた。

あるよく晴れた冬の日、僕たちはいつもの様に街角でチャイを飲んでいた。目の前には雪をかぶった勇壮なヒマラヤの山並みが腰をおろしている。

「不思議だなあ」山の方角をじっと見つめながら男は言った。「あそこで建設中のビル、一体どんなテナントが入るんだろうなあ?」
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