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更新日:2017年5月2日 / 新聞掲載日:2017年4月28日(第3187号)

料理研究家・田中伶子さん(下)

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本が売れないといわれて久しいが、料理書も例外ではない。ネットで検索すれば、料理のレシピは選ぶのに迷ってしまうほど出てくる。何を基準に選んだらいいのかわからないほどの数の中から、レシピを選び、書かれている材料と手順で作ってみても、味がピンとこない。そんなことを繰り返すと、ネットの情報の信頼感は揺らいでくる。

そのような中、紙媒体ながら、何度も版を重ねてたくさんの人に受け入れられる料理書となったのが、田中伶子さんの『一生作り続けたいおかず』。二〇一四年の発売以来、すでに一〇刷りを超えた。

売れる本にはそれなりのワケがある。この本は、「料理教室で教えるそのままの雰囲気で、基本レシピをまとめたい」という田中さんならではの思いを理解してくれた、料理編集部の編集長自らが担当し、細かい工夫がいくつも重ねられている。例えば、数あるレシピの中から、教室で特に人気の高いベスト五をすべて手順写真付きで紹介したり、調理ポイントを吹き出しに入れて、目に留まるようにしたり、五〇年にわたる料理教室でのデータが見事に反映されている。表紙の写真も実にシンプルで、訴えかけるものがある。

私もこの本の中から、気になるものを何度も作ってみたが、本当に美味しくできあがる。やはり何よりもこのことが、ロングセラーの根拠なのだと実感している。
ところで最近、田中さんは『結婚できる和食教室』(光文社)という何とも気になるタイトルの本を出版した。これは女性月刊誌『CLASSY.』(クラッシィ)での一年半の連載をまとめたもの。「結婚できる」というタイトルのストレートさが実にいい。聞けば、この連載が始まってから、教室に通う生徒のうち四十五人の結婚が決まったという(教室に通う生徒数は年間四〇〇から五〇〇人)。なんだか信じられない話だが、「この一年間で私に報告してくれた人だけでこの数字だから、ホントはきっともっといるはずよ」と田中さんはにっこり。

自分から料理を作ってあげた積極派から、「一度食べさせてよ」と相手からいわれ、何度か料理を作るうちに結婚に至った人までさまざまだというが、「こんなこと、今までなかったことよ」と田中さんも首をかしげる。

食の安全が叫ばれ、自分の手で料理をしたいと思っても、働かざるを得ない現実や時間の制約との闘い。そんな中でも「おいしいものを作って食べさせたい、という気持ちがあれば方法はある」と田中さんはいう。「手作りの心のこもった料理は人を幸せにします。おいしいと思ってもらえる幸せを、一人でも多くの人に感じてほしい」

七五歳にして現役の指導者、そして経営者。「あっという間の五〇年だったけど、おそらくやっていることは昔と少しも変わっていない。お稽古事で始めた料理が面白くて面白くて。そのうち通っている料理教室の助手にしてもらって、そのうちに自宅で教えるようになりました」

いつも自然の流れに逆らわずに仕事をしてきた田中さんが、「本を出したい」と意を決してお話をしてくださった。そこから多くの人の手を経て一冊の本が誕生し、書店に並んだ。そして「これが欲しい!」「家で作ってみよう」と、数ある料理書の中から、この一冊を手にレジに運んでくださるお客さまがいる。その延長に家族の「おいしいね!」という笑顔がある。

三度三度の食事が、命を紡ぐことと直結していると考えると、一つ一つのことをおろそかにはできない。肉や魚を吟味して選び、その下ごしらえをし、どうしたらもっとおいしくなるか考える。この繰り返しを日々実践してきた、田中伶子さんの五〇年間の仕事は、これからも多くの人を幸せに導いていくのだろう。 
この記事の中でご紹介した本
結婚できる和食教室/光文社
結婚できる和食教室
著 者:田中 伶子
出版社:光文社
以下のオンライン書店でご購入できます
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