ドゥルーズと多様体の哲学: 二〇世紀のエピステモロジーにむけて 書評|渡辺洋平(人文書院)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 読書人紙面掲載 書評
  4. 学問・人文
  5. 哲学・思想
  6. ジル・ドゥルーズ
  7. ドゥルーズと多様体の哲学: 二〇世紀のエピステモロジーにむけての書評
読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年5月1日 / 新聞掲載日:2017年4月28日(第3187号)

ドゥルーズと多様体の哲学: 二〇世紀のエピステモロジーにむけて 書評
ドゥルーズの業績全体を解き明かそうとする意欲的な試み

ドゥルーズと多様体の哲学: 二〇世紀のエピステモロジーにむけて
著 者:渡辺洋平
出版社:人文書院
このエントリーをはてなブックマークに追加
ドゥルーズは初期から晩年まで一貫して、一元論と多元論のアンチノミーを考え抜いた。ある絶対的な一つのものから展開していく伝統的西洋形而上学の一元論が困難であることは明らかであるが、だからといって多元論に立ったとたん、相対主義のあらゆる困難を抱え込むことになる。この問いとの格闘の途上で、彼は、差異と反復、生成変化、リゾーム、ノマド、襞などさまざまな「概念」を、橋頭堡として残していった。またこの問いは「具体的な」問題でもある。一元的価値を主張する立場どうしが対立した場合、どのようにして解決しうるかという問題である。この問いは、人類が人類全体を消滅させる手段を手に入れた二〇世紀において喫緊の課題となった。デリダの「差延」やリオタールの「争異」といった概念も、このアンチノミーを考えようとする試みであった。

本書の鍵概念である「多様体」も、そうしたドゥルーズの闘いのための手がかりの一つである。それは、数学者リーマンが提案した位相幾何学上の概念であり、部分的にユークリッド空間が同時に複数存在するような図形だとされる。したがって多様体には、好きなところにいくつもの座標を設定することができることになる。ドゥルーズは、この概念の重要性についてクレ・マルタン宛の手紙で次のように述べている。「あなたは、多様体の概念が私にとってどれほど重要であるかをよく理解されています。それは本質的に重要なものです。そして、あなたがおっしゃるように、多様体と単独性とは本質的に結びついています」。続けてドゥルーズは、多様体の概念を、中心も始まりも終わりもなく多方向に錯綜しながら、しかし一つの全体としてつながっている根茎(リゾーム)のイメージに結びつけている。

本書は、この概念を手がかりにして、ドゥルーズの業績全体を解き明かそうとする意欲的な試みである。著者は、まずドゥルーズの哲学が一貫して、非人称的で前個体的な「だれか」の世界にもとづいて世界を記述しようとする超越論哲学だと規定する。その上で「出来事」の概念が、あらゆる個体を偶発的事例として可能にする、非人称的で前個体的な特異性だということを明らかにする。続けて、映画、強度、ノマド、欲望、芸術などのテーマがこの概念を鍵にして解き明かされることになる。とりわけ第四章の戦争機械についての分析は説得的である。

本書の特徴の一つは、映画論や芸術論についても一貫した視点で分析が行われていることであろう。第二章では映画論が取り上げられ、「映画こそ非本質的なコマを並べることによって、多様な世界を描き出す芸術」だという点でドゥルーズの「非本質主義」をあらわすモデルだとされる。また第六章では、ドゥルーズ・ガタリの芸術論が「美学的自然哲学」として特徴づけられ、一貫して芸術作品が非物質的なものとみなされていること、発生から生成変化へというドゥルーズの思想の変遷が芸術論においても確認されることを明らかにしている。

博士論文をもとにした本書は、周到に境界を設定している。例えば考察の対象を、ドゥルーズが独自の思想を展開した著作に限定することによって、扱いが難しいガタリとの共著を等しく扱うことに成功している。また、「多様体」の概念についても、それが数学史のなかでどのように理解されてきたかについては触れないことによって、数学的概念の誤用・濫用だという批判を予め避けている。

ただ、このような境界画定によって、少しフィールドが狭まった感も否めない。例えば、ドゥルーズが「多様体」の概念を最初に扱った『ベルクソニズム』を主要な考察の対象から除くことによって、「多様体」と時間の問題が後景に退くことになった。また数学における多様体の概念についての説明があれば、ドゥルーズの多元論=一元論という問題設定の全体像が読者にとって見やすくなっただろう。しかし、こうした作業は、むしろ読者に委ねられているのかもしれない。
この記事の中でご紹介した本
ドゥルーズと多様体の哲学: 二〇世紀のエピステモロジーにむけて/人文書院
ドゥルーズと多様体の哲学: 二〇世紀のエピステモロジーにむけて
著 者:渡辺洋平
出版社:人文書院
以下のオンライン書店でご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
松葉 祥一 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
学問・人文 > 哲学・思想 > ジル・ドゥルーズ関連記事
ジル・ドゥルーズの関連記事をもっと見る >