日本ノンフィクション史 - ルポルタージュからアカデミック・ジャーナリズムまで 書評|武田 徹(中央公論新社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年5月1日 / 新聞掲載日:2017年4月28日(第3187号)

日本ノンフィクション史 - ルポルタージュからアカデミック・ジャーナリズムまで 書評
いまだに概念が混沌としたノンフィクションに一つの道筋を示す 

日本ノンフィクション史 - ルポルタージュからアカデミック・ジャーナリズムまで
著 者:武田 徹
出版社:中央公論新社
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これまで文学史の本は数多くあるけれど、ノンフィクション史の本はまだ書かれていない。ノンフィクション史を語るには、まず「ノンフクションとは何か」を明確にしないと先に進めない。ルポルタージュ、体験記、冒険・探検記、旅行記、評伝・自伝、事件・社会問題のドキュメント等々の幅広い分野を指している。著者は具体的に個々の作品を取り上げて論じているわけではなく、ノンフィクションという概念がどのように成立したかをたどりながら、この表現分野を俯瞰的に捉え整理する仕事に挑んでいる。

ノンフィクションとは、「せいぜい1970年代までしか遡れない概念である」と著者は書く。戦前戦後を通じて、ジャーナリズム的な視点で出来事を物語形式で報告する作品が報告文学、ルポルタージュなどと呼ばれていたが、「ノンフィクション」という言葉が人口に膾炙したのは、60年に筑摩書房から刊行された「世界ノンフィクション全集」であり、62年に日本テレビが放送開始した「ノンフィクション劇場」だとする。

そして、大宅壮一が57年に若手の評論家、ジャーナリストを集めて作った「ノンフィクションクラブ」に注目する。大宅がノンフィクション物の時代がくると予感し書き手たちをバックアップしようとした動きを見逃していない。50年代前半から出版社系週刊誌の創刊ラッシュがあり、大宅グループの書き手たちは記事作成の中心的役割を担った。70年には、大宅壮一の名前を冠した日本で初めてのノンフィクション賞が誕生する。

日本のノンフィクション史を振り返るとき、今年で約半世紀を迎える大宅賞について、もう少し詳細に検証してほしかった。選考基準、つまり作品評価に多少のブレが見られるものの、それは同時に日本のノンフィクション概念の推移とも見て取れるし、選考委員も受賞者も第一線の書き手たちだった。書き下ろし競作なども試みられるほどノンフィクション隆盛の時代もあったのだ。方法論としてのニュージャーナリズムが、沢木耕太郎の作品をなぞりながら紹介されているけれど、当時、他のライターたちの間でも文体論や方法論についての議論が真剣に交わされ、さまざまな試みがなされていた。

しかし、「世界ノンフィクション全集」の各巻解説を担当した学者、評論家、作家たちの言説が、記録性重視から文学性重視に傾いてゆく軌跡を追っているのは慧眼で、「記録性が軽視され、事後的な検証に開かれていないために、日本のノンフィクション作品は社会学的な資料たりえない」という負の部分を指摘する。隠れた事実を発掘し、徹底的な取材による事実の積み重ねが自ずと物語を紡ぎ出す。商業性が物語性優先を誘導したとすれば、発想自由なフィクションとどう競うのか。事実だけを書くことで成り立つノンフィクションの難題を衝いている。また「学問的方法論をジャーナリスティックな対象に適応する必要性が高まっている」という社会学者開沼博の言葉を引き、現状分析においても、ノンフィクションは若手研究者たちに後れをとっていると手厳しい。現在、ノンフィクション不振が話題に上る。著者は硬直化したと言われるノンフィクション再生を科学性に託すが、記録を残し公開するという意識の低い社会風土では壁も厚い。だが、いまだに概念が混沌とするノンフィクションに一つの道筋を示した画期的な仕事であるのは間違いない。
この記事の中でご紹介した本
日本ノンフィクション史 - ルポルタージュからアカデミック・ジャーナリズムまで/中央公論新社
日本ノンフィクション史 - ルポルタージュからアカデミック・ジャーナリズムまで
著 者:武田 徹
出版社:中央公論新社
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