続・ハイデガー読本 書評|秋富 克哉・安部 浩・古荘 真敬・森 一郎(法政大学出版局)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2016年7月22日 / 新聞掲載日:2016年7月22日(第3149号)

2500年以上に及ぶ哲学史 とハイデガー哲学との対決

続・ハイデガー読本
出版社:法政大学出版局
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好評をもって迎えられた、同編集者による『ハイデガー読本』(2014年)の、文字通りの「続」編である。前著同様三部構成であるが、29章立ての前著にも増して、全35章プラス12のコラムによって構成される本書は、一段と多彩な内容を誇る。ただし、そのテーマはコラムも含めて、現代思想を含む2500年以上に及ぶ哲学史とハイデガー哲学との対決にほぼ絞られている。第Ⅰ部「哲学の伝統との対話」はアナクシマンドロスに始まる古代ギリシアから近代ドイツのヘーゲルまでが取り上げられ、第Ⅱ部はその題名「二十世紀の潮流のなかで」にあるように、ニーチェからサルトル、メルロ=ポンティという、前世期の中ごろまでの思想家が俎上に載せられる。そして最終第Ⅲ部「ハイデガー以後と現代思想」は必ずしもハイデガー思想の直系に属するとみなされない思想家も取り込んで、「他なる思考の競演」(同部副題)を披露する。そこには鈴木大拙や西田幾多郎など、明治期以降の主たる思想家はむろん、戦後を代表する日本人ハイデガー学者四名も組み入れられている。

本書の各章はそれぞれが一人の哲学者に当てられているわけではない。コラムも含めると、名が挙げられている哲学者は総勢86名に及ぶ。執筆者も、一章を共同執筆する場合もあるので「序」と「導入」も含めて、のべ52名を数える。一人の哲学者をめぐって取り上げられる対象と執筆者がこれだけの多数となるとは、ハイデガーの哲学者としての偉大さを仰ぎ見つつ、他方、正編も合わせるなら、百名近くの学者が動員されうるだけの現代日本におけるハイデガー研究の壮観な盛況を言祝ぐべきだろうか。いずれにせよ対象と執筆者の多数性からして、本書のよって立つ思想的立場が首尾一貫したものとなることは望むべくもない。しかし本書が統一性を欠いたまったくの各論の寄せ集めというわけでもない。構成上たしかに通読には向かないかもしれないが、むしろ事典として、折を見て、意図的に同分量に抑えられた各章を散策的に覗き見るというのも、一法なのかもしれない。

とはいえ、特に第Ⅰ部から第Ⅱ部の半ばにかけては、ハイデガーによる当該哲学者との対決、つまりは当該哲学者に関するハイデガーの解釈をめぐって、それぞれの論者の力のこもった評価が多彩な立場から提示されていて、その多彩さを享受するだけでも、本書のもたらす大きな楽しみの一つといってよい。例を挙げるなら、ハイデガーによる思想解釈に対して根本的な批判ないし疑義を提示するもの、ハイデガーの解釈の表面上の不整合を解消したり、その特異な魅力の秘密を解き明かそうとするもの、ハイデガー哲学の道行きに対して当該思想が有した重要な意義を確認するもの、ハイデガーの問題提起による当該思想の従来的理解の解体・刷新を跡付けるもの、当該思想とハイデガー哲学の主要モティーフの、不可視の根底的共通性を浮き彫りにするもの、ハイデガーによるラディカルな解釈のさらに向こうをゆく思想のラディカル性を当該思想そのもののうちから掘り起こして来ようとするもの、時代状況などが突き付けてくる思想上の根本問題に対する、当該思想家とハイデガーの応答の異同を確認しそれのもつ意味を闡明しようとするもの、等々――。

ただし、以上は第Ⅱ部前半までのことである。後半、より正確には、本書全体のちょうど中間、第17章あたりからは、ハイデガーによる対決ではなく、ハイデガーとの当該思想家の対決に主眼がごくさりげなく移ってゆく。勢い各章の議論は、ハイデガーに対する批判、あるいはハイデガー思想の受容と変容、さらには克服といった論点に重きが置かれることになる。穏健と目されるリクールのハイデガー批判の潜在的な苛烈さ、アドルノやウィトゲンシュタインは言うに及ばず、一見したところ水と油の関係にある、カルナップとの思想的モティーフの意外な通底性の指摘などは興味深い。最後に、これはハイデガーがいささか背景化した感もあるが、「他者」との共同性をめぐる和辻哲郎と九鬼周造の思想的差異がいかにそれぞれの哲学を深部まで規定しているかの論述は、共同性それ自体の可能な諸相を描き出していて、印象に残った。むろん、読者によっては別の章により共感や関心を覚えることだろうし、本書がそれだけの豊かな情報量を湛えていることは、書評子として言い添えておかねばならない。40頁以上に及ぶ文献表も貴重。
この記事の中でご紹介した本
続・ハイデガー読本/法政大学出版局
続・ハイデガー読本
著 者:秋富 克哉・安部 浩・古荘 真敬・森 一郎
出版社:法政大学出版局
以下のオンライン書店でご購入できます
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