浅草オペラ 舞台芸術と娯楽の近代 書評|杉山 千鶴(森話社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年5月8日 / 新聞掲載日:2017年5月5日(第3188号)

浅草オペラ 舞台芸術と娯楽の近代 書評
先鋭的で緻密な論証の数々 
実証資料に基づいて実態に迫る

浅草オペラ 舞台芸術と娯楽の近代
著 者:杉山 千鶴、中野 正昭
出版社:森話社
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浅草オペラとはどのようなものであったのか、そして後続のレヴューとの違いは、という初心者向けでもあれば上級者向けでもあるような問いに対して、隔靴掻痒の感を抱く方は、少なくないのではないだろうか。

どちらも、単にオペラだけではなさそう、踊りだけではなさそう、のあたりに答えにくさの原因がありそうだが、そんな方たちにとって、多くの実証資料に基づいて浅草オペラの実態に迫った本書は、うってつけの案内書と言えるだろう。

杉山千鶴・中野正昭両氏の編になる本書は、第Ⅰ章「浅草オペラの源流」、第Ⅱ章「浅草オペラの女たち」、第Ⅲ章「浅草オペラの舞踊と演劇」、第Ⅳ章「浅草オペラのメディア」という四つの章から成っている。各章は二つの論で構成されており、そうした構成や章タイトルからもわかるように、本書はあくまでも先鋭的な論集であって、浅草オペラの概観や通史ではない。そのため、通史的な面も期待する読者からすれば、歴史や人物紹介の各論間での重複や齟齬(ローシーの没年を明記した論と不明とした論があるなど)は少々気になる。

もっとも、それらを補って余りあるのが、各論の先鋭的で緻密な論証の数々である。海外の史料を縦横に使って大正オペラの祖であるローシー伝の空白部分を埋めたり(第Ⅰ章)、翻訳歌劇の歌詞の口語化・俗化過程をテキストに即して具体的に明らかにするなど(同)、多くのことを教えてくれる。

第Ⅱ章は女優論であり、アイドル的存在だった高木徳子・河合澄子、実力派の澤モリノらがとりあげられ、熱い共感を持ってその生涯がたどられる。これは第Ⅱ章に限ったことではないが、ブロマイドなどの写真類や実際に何が上演されていたかがわかるプログラム類、雑誌の人気ランキング表など、多くの資料が紹介されて論のわきを固めているのもすこぶる魅力的である。

第Ⅲ章では、浅草オペラを彩った様々な舞踊家たちの舞踊とその受け取られ方、小松耕輔らによる名作オペラの日本的ダイジェスト化、が考察対象だ。舞踊は、劇のワンシーンの場合と独立した演目の場合があり、それらを舞踊家ごとに演目ごとに整理してその推移を明らかにした杉山千鶴「浅草オペラの舞踊」は、浅草オペラとは、という根元的な問いに対するもっとも端的な答えともなっている。

第Ⅳ章では、ファン雑誌の動向と、佐々紅華の多彩な音楽遍歴・レコード制作史が明らかにされており、毛利眞人「浅草オペラから舞踊小唄まで―佐々紅華の楽歴」では、昭和のレヴュー全盛期、レコード全盛期への橋渡しも試みられている。

全体を通して見て、概観の役を担う中野正昭の序論「浅草オペラという近代」が、前史には触れながらその後への言及がないが、その代わりとして前後を見渡す年表でもあれば、諸論のつながりはさらに強化されることになったのではないだろうか。
この記事の中でご紹介した本
浅草オペラ 舞台芸術と娯楽の近代/森話社
浅草オペラ 舞台芸術と娯楽の近代
著 者:杉山 千鶴、中野 正昭
出版社:森話社
「浅草オペラ 舞台芸術と娯楽の近代」は以下からご購入できます
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