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Forget-me-not
更新日:2017年5月9日 / 新聞掲載日:2017年5月5日(第3188号)

Forget-me-not⑱

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ナイロビ郊外の自宅にてボーイフレンドと共に女装姿で休日を過ごすニック(左)。 ⒸKeiji fujimoto

近所に暮らすニックは、時々女装をしてナイロビのダウンタウンに出かけていた。だからといって何か特別なことをするわけではない。女物の服や下着を買ったり、少し洒落たランチを食べるくらいのことだ。その見た目があまりにも絶妙なため、敢えて自ら示さないかぎり男性であると気がつく人はほとんどいない。その日もやはり女装をして街へ出る予定だと話していたので、彼に頼んで同行させてもらうことにしていた。

化粧を施す前のニックは、まだ性別の境が曖昧な子どもの様であり、またすでに大人の事情を熟知しているかの様な独特な雰囲気があった。

数十分をかけて着実に変身していく彼の横で、幼い頃の話も随分と聞くことができた。勉強漬けの日々で遊ぶ時間などはろくになかったらしい。銀行に就職してからも周囲からやっかみを受けたので、対処する術などは自然と身についていったと話していた。

僕は、彼がとても素直に話をすることに気がついていた。ありふれた思考や多数派意見に逃げ込まない、自分なりの価値観を備えている人間の話し方だった。

「タクシーが外で待ってるみたい」

ドアを開け陽光に向かって歩き始めた彼の影が伸び、路上で遊ぶ子ども達にかかる。僕は我にかえると、慌てて立ち上がりその後を追った。
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