戦時日本の大学と宗教 書評|江島 尚俊(法藏館)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年5月15日 / 新聞掲載日:2017年5月12日(第3189号)

戦時日本の大学と宗教 書評
学問や宗教はどこまで近代の総力戦体制の流れを変えられるのか

戦時日本の大学と宗教
著 者:江島 尚俊、三浦 周、松野 智章
出版社:法藏館
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本書は、大正大学総合仏教研究所「大学と宗教」研究班に属する編者を中心に若手・中堅研究者で継続的に研究され、成果が公刊されている『シリーズ 大学と宗教』の第二巻である。第一巻『近代日本の大学と宗教』では、明治期から大正にかけて宗派仏教の宗学や教派キリスト教の教学が、いかに近代日本の学制に学問として収まり、同時に学林や僧堂、修道院などで行われていた宗教者養成が学校に位置づけられるようになったのかを明らかにした。

続く第二巻では、日中戦争と太平洋戦争における戦時体制下において、「宗教系大学が国家といかに対峙したのか、その実態が明らかに!」されることになる。この帯文がいい。読者の期待をいい意味で裏切ってくれる。対峙した大学、宗教者はわずかであり、多くの大学や宗教者は体制のなかで生き延びるべく、自ら皇道の理念と大東亜の構想に適合的な教育と宗教を志向した。なぜ抵抗しなかったのか。できなかったのか。

戦後、知識人や宗教者は天皇制・軍国主義のファシズムや国家神道を痛烈に批判する言説を生産した。それは封建遺制と訣別し、王政復古による近代化を乗り越えるために必要な思想運動だった。しかし、戦前に活躍した保守の政治家や財閥は戦後も日本の権力の中心にあったし、官僚による統治は存続した。

一章で江島尚俊が述べるとおり、特定の思想や人物、組織のあり方に注目するファシズム論は、戦前と戦後の断絶を強調しすぎた。むしろ、近代国家のシステム的側面に着目する総力戦体制論を前提とすれば、戦後も体制は存続している。この点は、本シリーズの第三巻で展開されるだろう。

総力戦体制は、教育勅語と皇室崇拝という教育制度や警察/軍隊といった権力機構だけで維持されたわけではない。中央集権的な省庁による社会組織の行政的管理という近代的制度が、非近代主義的心性と態度を根深く再生産し続けているのである。

大学の自治、信教の自由というたてまえは、教育行政の下で変質する。この管理の構造は戦前に特有のものではなく、現在も文部科学省の許認可や予算配分による大学統治、あるいは安倍政権による教育勅語利用の閣議決定など含めて行政的管理として継続している。

さて、本書の各章では、(1)大学が教育内容を体制翼賛に変えることで存続を図ったキリスト教系大学と仏教系大学の事例と、(2)皇道宗教に擬態しながら宗教行政のなかで居場所を模索したキリスト教と仏教・神道の宗教専門職養成機関の事例が収録されている。

この時代、帝国大学は近代的な天皇制と大東亜共栄圏の思想的・歴史的位置づけを行う講座を設置した(二章)。教育行政でも財政においても立場の弱い私学は生き残りを模索した。とりわけ、西欧の宣教団から資金・人材の支援を受けるミッション系大学は必死だった。上智大学は明治神宮集団参拝や日本文化研究で軍部からの批判をかわし(三章)、立教大学は宗教学科と聖公会神学院の二重学籍制で時間を稼ぎ(六章)、同志社・関西学院もカリキュラムを変更した(七章)。また、日本基督教団として合同化を選択した教派は合同神学校において教育勅語を奉読し軍事教練を受けることで時局対応を図った(一〇章)。

仏教系大学(四章の立正大学と八章の大正大学)や神道系大学(五章の國學院大學と神宮皇學館大学)では、むしろ積極的に時局に対応する科目を設置し、教育科目を僧位や神職の階位にする専門職養成を行ってきた。同時に校友への慰霊・追悼儀礼も大学独自に行い、時局が緊迫すると共に社会的要請に応えた戦没者一般への慰霊行為も行った(九章の大正大学)。ブライアン・アンドレー・ヴィクトリア『新装版禅と戦争』(二〇一五、えにし書房)が述べるように、総力戦体制に仏教は適応した。

本書の読後感は重い。学問や宗教はどこまで近代の総力戦体制の流れを変えられるのだろうか。システムは自動的に動くわけではなく、個人の意思や力で変えられる部分はある。そうした先達を描ききれていないのが総力戦体制論の欠点だが、第三巻では希望を見いだしたい。
この記事の中でご紹介した本
戦時日本の大学と宗教/法藏館
戦時日本の大学と宗教
著 者:江島 尚俊、三浦 周、松野 智章
出版社:法藏館
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