an・anの嘘 書評|酒井 順子(マガジンハウス)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年5月22日 / 新聞掲載日:2017年5月19日(第3190号)

an・anの嘘 書評
時代と共に歩む喜び  
〈逃げ道〉を与えた罪深きアンアンの嘘

an・anの嘘
著 者:酒井 順子
出版社:マガジンハウス
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一九七〇年の創刊以来、女性向けに様々な生活情報を提供し続けてきた雑誌「アンアン」。本書は、その歴史を当時の誌面と共に振り返り、時代の変遷を紐解いていく。

創刊時の「アンアン」が掲げる女性像は、ウーマンリブがお手本だった。男性に媚びず、自分の仕事を持ち、主体的に選択するパワフルな女性像。異性にうけることよりも、自分の欲望に忠実であれ、と読者へ強く呼びかけるのだ。

だが、ときに過激な方向へ振り切れることも。「レズビアンを体験」「チビデブを支持します」など、自由すぎる特集が目を引く。その常識破りの姿勢は、女性の旅ブームなど、様々な社会現象を生むことになる。本書は、アンアン本誌での連載コラムが元になっているにもかかわらず、歴代アンアンの迷走ぶりに細かくツッコミを入れていく。その内容が痛快で傑作なのだ。

初期アンアンは、とにかく時代の先を行く。リセエンヌを世に送り出した雑誌といえば「オリーブ」という印象だが、実は初めて取り上げたのは「アンアン」、という事実は興味深い。シャネルなどの海外ブランドも、ブームのずっと前に紹介していた。一方、現在のアンアンといえば、占いやスピリチュアルの特集、男性芸能人のグラビアが話題。誌面の変貌も、時代に対応したものだった。

一九七〇年代後半は、恋愛結婚する人が増加し、「自分の力で結婚しなくてはいけない時代」が到来。かの有名な「セックスで、きれいになる。」特集が組まれたのは、一九八四年のこと。初期アンアンが標榜していたのは、〈女性にとっての性の解放〉を目指す社会的なセックス。それに対し、八四年の特集は「きれいになる」という機能性を付与して、カジュアルなセックスライフを示した。そして、二〇〇〇年「恋に効くSEX」特集では、〈機能性より相手との関係性を重視し、恋愛をより深化させるためのセックス〉という位置づけに変化したという。

占い・スピリチュアルブームの背景も、時代と密接に結びついている。生き方を自由に選択できるようになった分、自らの選択に不安を覚える女性は少なくなかった。長引く不況、雇用問題、男性の草食化――。努力だけではどうにもできない問題を、彼女たちは見えない力にすがって、乗り越えようとしたのだろう。

アンアンが女性たちへ示した道は、必ずしも正しい方向ではなかった。けれど〈読者達はアンアンの道を歩いている時、「時代と共に歩む」という感覚を全身に覚え、確かに幸せだったのではないか〉と著者は綴る。時代と共に歩む歓び。それは、ゆとり世代の私が味わってこなかった感覚だ。

スピリチュアルブームの先駆者・江原啓之氏は、巻末の対談で、〈アンアンは逃げ道をつくるような別の幸せも与えてきた。…だから罪深い〉と述べている。独身女性に〈逃げ道〉を与えた罪深きアンアンの嘘。だが、それは確かに女性の人生を彩り、夢を与えてきたに違いない。
この記事の中でご紹介した本
an・anの嘘/マガジンハウス
an・anの嘘
著 者:酒井 順子
出版社:マガジンハウス
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