それでも、日本人は「戦争」を選んだ / 加藤 陽子(新潮社)時代の激動が本を追い越す感慨歴史学の醍醐味を再認識する |書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年7月29日 / 新聞掲載日:2016年7月29日(第3150号)

時代の激動が本を追い越す感慨歴史学の醍醐味を再認識する 

それでも、日本人は「戦争」を選んだ
出版社:新潮社
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それでも、日本人は 「戦争」を選んだ

本書のタイトル『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』は、今からふりかえっても凄いタイトルだったと思う。文庫の元となった本が刊行された二〇〇九年以来、多くの読者がこの本を手に取ってくださったきっかけの大半は、このタイトルが作ったのではあるまいか。本当のところを打ち明ければ、この衝迫力を持つタイトルを考えてくれたのは、元の本の版元である朝日出版社社長・原雅久氏だった。

この本の元となる、中高生を相手にした日本近代史の講義を開始したのは二〇〇七年であり、〇八年のリーマン・ショックも、一一年の東日本大震災も、一二年の尖閣諸島国有化とそれに付随して起こった中国での反日デモも、いまだ知らない、凪のような時代の日本に、私も生徒も生きていた。

「戦争」の影もかたちもいまだ見出せなかった二〇〇九年の刊行時からこの本は、ありがたいことに、七年という時間を生き延びてきたが、その間の世の中の変わりようはどうだろう。近代日本の過去の戦争の歴史を描いた、当時にあっては、いささか挑発的なタイトルが、いつのまにか、現代日本における人々の政治選択のさまを描いた本であってもおかしくないものとなってしまった。時代の激動の方が、本を追い越して行ったとの感慨とともに、歴史学という学問の面白さを改めて再認識させられた。

過去をしっかりと描きつつも、現代や未来を創造する手助けが、ふとしたきっかけで出来てしまうのが歴史学の醍醐味なのではないかと思う。本書の「はじめに」で私は、一九三〇年代と現代とが似ている理由について、与野党の得票が大きくスイングした国政選挙の動向、一九二九年の世界大恐慌に端を発した昭和恐慌時の経済との類似性、この二つを指摘しておいた。

戦前と戦後では、憲法も選挙制度も異なるので単純に比較できないが、一九三二年の立憲政友会の圧勝(三〇一議席)と、二〇〇九年の民主党の圧勝(三〇八議席)は、やはり、象徴的な意味を持っていたと思われる。生活と安全が脅かされたと国民が感じ、既成勢力への信頼が完全に揺らぐ時、国民はナショナル・スイングを起こす。

日清戦争以来、十年ごとに戦争をやってきた感のある日本で、為政者や国民が戦争を選んだ過程については、本書で書いた。一九三一年の満州事変から一九四一年の真珠湾攻撃までの十年間、戦争に至る過程で大きな政治的決断を迫られた日本が、いかなる選択肢を実のところ持ち、いかに選択したのかについては、この八月刊行予定の次回作『戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗』(朝日出版社)で描いた。乞うご期待。
この記事の中でご紹介した本
それでも、日本人は「戦争」を選んだ/新潮社
それでも、日本人は「戦争」を選んだ
著 者:加藤 陽子
出版社:新潮社
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