核密約から沖縄問題へ―小笠原返還の政治史 書評|真崎 翔(名古屋大学出版会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 読書人紙面掲載 書評
  4. 社会・政治
  5. 日本の政治
  6. 核密約から沖縄問題へ―小笠原返還の政治史の書評
読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年5月29日 / 新聞掲載日:2017年5月26日(第3191号)

核密約から沖縄問題へ―小笠原返還の政治史 書評
小笠原返還の意義を再定義 
戦後日米関係史研究に一石を投じた気鋭の書

核密約から沖縄問題へ―小笠原返還の政治史
著 者:真崎 翔
出版社:名古屋大学出版会
このエントリーをはてなブックマークに追加
本書の目的は、これまで沖縄返還交渉の陰となっていた小笠原返還交渉に焦点を当て、小笠原研究者の視点から沖縄返還交渉と核密約そして日米安全保障体制について考察することにある。そして著者の重要な結論のひとつは、「今日的な基地問題の起源とも言える沖縄返還交渉は、日本側交渉者がその重要性を見誤り、過小評価していた小笠原返還交渉の結末に大きく影響されていた」ということである。

小笠原諸島は古くから太平洋を航海する船乗りの間で知られていたが、定住する者がおらず、長い間、無人島だった。そして最初の入植者は日本人ではなく、一八三〇年六月に欧米人とハワイ人の二五名が小笠原諸島の父島に入植したのである。その後、ペリー提督も浦賀来航に先立つ一八五三年六月に父島に到着した。日本人が小笠原の領有権獲得のために入植したのは一八六二年からであった。

一八七六年に明治新政府は領有権を主張、第一次大戦後、日本は小笠原を軍事要塞化していき、太平洋戦争末期の硫黄島における激戦で日本の死傷者が一万八三〇〇名だったのに、米国の死傷者はそれをはるかに上回る二万六〇三八名だった。米国の勝利で小笠原諸島は米国の支配を受け、一九五二年のサンフランシスコ講和条約発効後もその支配は続いたのである。その後、日本国内の世論の圧力を受け、佐藤栄作首相とリンドン・ジョンソン米大統領は小笠原返還交渉に取り組み、一九六八年四月に小笠原返還協定が調印され、小笠原諸島は日本に復帰した。

米国占領期の父島と硫黄島には、ソ連侵攻に備えて核兵器が配備されていた。核抑止が破れ、ソ連がアチソン・ラインという不後退防衛線上にある日本に侵攻した場合に、小笠原は反撃拠点の一つにされていたのである。しかし核運搬技術や偵察能力等の科学技術の発展によって常設基地の重要性が低下、小笠原の米軍基地としての重要性も低下した。ただし軍部の主張により緊急時の核貯蔵基地としての機能が硫黄島において維持されることになった。全島一括返還という形式上の成果を佐藤首相にもたせる見返りに、米国は佐藤に硫黄島を事実上、分離返還するための小笠原核密約と政治経済上の支援を要求したのだった。

そしてこの小笠原返還交渉は、日本側交渉者たちの知らないうちに沖縄返還交渉の伏線となっていた。沖縄返還の条件として、「核抜き」は非核三原則を掲げる佐藤内閣にとって不可欠な難題であった。国務省は日本との沖縄返還交渉において、最後まで「核抜き」返還については白紙であるという姿勢を取り続けたからである。だが実は、一九六〇年代後半には核兵器や常設の核発射拠点の重要性が低下していたため、かつ小笠原核密約がすでにあったので、沖縄を「核抜き」返還するための下地はすでにできていた。交渉における米国側の眼目は、在沖米軍基地の「自由使用」という既得権を返還後も守ることにあった。

そして「核抜き」返還の条件として、米国は日本から最大限の譲歩を獲得できた。すなわち在沖米軍基地のみならず在日米軍基地の朝鮮半島有事および台湾有事における「自由使用」の権利を獲得できたのである。そしてまた小笠原核密約に続いて、核兵器を返還後の沖縄へ再搬入する権利を米国に与える核密約が結ばれた。

小笠原と沖縄の返還達成というのは見せかけにすぎず、米軍占領の継続を佐藤政権は黙認したに過ぎない。そのために返還されてもなお、島民と在日米軍との軋轢という代償を伴っている。沖縄の本土復帰は、上原康助元沖縄開発庁長官がかつて復帰記念式典で指摘したように、沖縄の人々の熱い思いとはかけ離れ、国民の眼をも欺いた欺瞞に満ちたものだった。

「多くの小笠原島民および沖縄県民にとっては、まだ『戦後』が終わったとは言えない状況が続いている。基地を受け入れる自治体の不条理な犠牲の上に、かろうじて日米同盟は成立しているのである」と著者は結んでいる。傾聴に値する言葉である。

異論もあろうが、本書は小笠原返還の意義を再定義することで、戦後日米関係史や日米関係論の研究に新たな一石を投じた気鋭の書である。
この記事の中でご紹介した本
核密約から沖縄問題へ―小笠原返還の政治史/名古屋大学出版会
核密約から沖縄問題へ―小笠原返還の政治史
著 者:真崎 翔
出版社:名古屋大学出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
社会・政治 > 日本の政治関連記事
日本の政治の関連記事をもっと見る >