中国のマンガ〈連環画〉の世界 書評|武田 雅哉(平凡社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年5月29日 / 新聞掲載日:2017年5月26日(第3191号)

知らないことが満載の「連環画」百科全書 
語る際の必読書である

中国のマンガ〈連環画〉の世界
著 者:武田 雅哉
出版社:平凡社
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本書は「連環画」の百科全書である。連環画とは中国で一九二〇年代から刊行されている絵物語のことだ。多くは小型の判型で一ページ一図、文字説明や吹き出しがついており、露店の貸本屋などで子どもから大人まで広く親しまれてきた。その連環画に関するありとあらゆることが、この本に書かれている。

明清白話小説の絵と文を伴う叙述の伝統に始まり、清末民初の画報や芝居との関わりから連環画が誕生するいきさつ。人気絵師とその代表作。子どもたちが神仙や武侠の連環画に感化され、仙境を求めて続々と家出した事件。抗日戦争の時期に宣伝画として作られた作品や、木版画との繋がり。新中国成立後に革命思想や科学、法律、衛生の宣伝・啓蒙のツールとして量産された作品群。民国期に活躍した絵師たちの解放後の運命。一九八〇年代以降の連関画の衰退。連環画研究の歴史。

絵師たちの回想する連環画の制作過程が特にいい。師匠の絵師がラフな人物画とストーリーを作り、弟子たちが背景を描く。そして最後に文字が入れられる。プロダクション形式の流れ作業で、徹夜も強いられる過酷な労働だ。それでも解放初期には注文が殺到し、絵師たちはすこぶる羽振りがよかったという。まさに知らないことが満載である。著者が中心になって集めた一万冊に上る連環画に基づき、雑誌や研究誌も丁寧に当たっているから情報も確かだし、図版も豊富で分かりやすい。今後、中国の連関画を語る際の必読書であることは間違いない。

ただ、注意したいことがある。本書は一九二〇、三〇年代に流行した漫画や、一九八〇年代以降、連環画に取って代わった日本式のマンガのことも紹介しているが、著者はそれらを連環画と地続きの同じ平面上にあるものと考えている節がある。本書のタイトルもそれを物語っている。だが、そうした記述は誤解を招きかねない。

一九三〇年代に、文芸大衆化をめぐって、漫画と連環画が連関形式の図画としてともに議論されたのは事実だ。しかし両者は次元が異なる。漫画は当時のモダニズム芸術運動との関連が深く、その制作も徒弟制度の流れ作業ではなかった。

また、八〇年代に初めて「鉄腕アトム」のマンガが中国に紹介されたとき、連環画の判型に組み直されたことも、マンガをめぐる議論が連環画と区別なく行われたのも事実だ。だが、それはまったく新しいものとしてマンガを語る言葉が、当時の中国にはなかったということに過ぎない。

ある作品群が広く社会に受け入れられるとき、そこには創作の仕方から、メディアによる流通、読者の享受の仕方に至る、一つの文化システムが形成されている。そして、今までと異なる文化システムに接したとき、人々はそこに未知なるものの到来を感じ取る。同じ呼称で、同類として議論されていても、マンガはそのような新たなシステムとして読者の前に登場したのである。でなければ、現在のような「動漫」文化の展開は理解できない。

そのことは本書の関心にも影響する。著者は「どうして連環画はこれほどまでに中国人を魅了したのだろうか」と問う。連環画だけを突き詰めてもおそらくその答えは出ない。それは、他の作品群との比較をとおして、連環画という文化システムの特徴が浮上する過程で、次第に明らかになるものであるはずだ。どんなに優れたものであれ、システムへの視座を欠く紹介は結局カタログに帰結する。

著者のいる北海道大学は連環画研究の拠点となりつつある。その長年の努力の結実がここにある。これを機に連環画が正しく認識され、等身大の中国を知る機運が高まることを願ってやまない。
この記事の中でご紹介した本
中国のマンガ〈連環画〉の世界/平凡社
中国のマンガ〈連環画〉の世界
著 者:武田 雅哉
出版社:平凡社
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