「呪術」の呪縛」上 書評|江川 純一( リトン)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年6月5日 / 新聞掲載日:2017年6月2日(第3192号)

「呪術」の呪縛」上 書評
良質で豊かな研究成果 
さらなる思索への招待に

「呪術」の呪縛」上
著 者:江川 純一、久保田 浩
出版社: リトン
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近代日本に宗教学が導入され、一〇〇有余年。この間、多くの優れた研究成果を生み出すことによって、日本の宗教研究は進展してきたが、現在、それは確実な実りを迎えつつある。このことを明確に物語る論文集が刊行された(宗教史学叢書の一角をなす)。扱われるのは、「呪術」であり、それは古今東西を通底する人類の裏面史を連想させつつも、宗教研究の中心テーマ、いわば王道とも言える。本論集は、上下巻合わせて八〇〇頁を超える大きさであるが、以下、本論集の目的と構成を説明し、続いて、ポイントを絞って、いくつかの注目すべき内容を紹介する。最後に若干のコメントを行いたい。

上巻「はしがき」によれば、本論集は、一九六〇年代以降進められてきた近代西欧的なreligion概念の問い直しを受け、宗教学で多様に扱われてきたmagic概念に、「事例に則して概念生成の場、概念使用の場」に立ち返ることによって、光をあてることをめざしている。それは、magic概念を自明視したり定義づけたりするのではなく、magic概念の諸相を浮かび上がらせる試みであって、その意図に従って、本論集は上下巻ともに、第一部「呪術概念の系譜」「呪術概念の再検討」(=学問的概念化の諸相)と、第二部「事例研究」という二部から構成される。第一部、第二部ともに、短い書評では紹介しきれないほど多様な内容を含んでいるが、まず第一部では、アメリカ、イギリスとフランス、ドイツ、日本(上巻)、西欧精神史、社会学年報学派、イタリア(下巻)といった多様かつ代表的な文脈において呪術理解・呪術研究が辿られる――第一部には宗教学の多くのパイオニアたちが登場する――。第二部では、アジア(インドネシア、中国、朝鮮)、日本(近代から現代)、オリエント・西洋(メソポタミアから西洋古代・中世・近現代)といった広大な領域から数多くの事例が取り上げられている。

本論集において、書評者として特に印象に残ったのは、次の点である。まず、第一部の呪術概念の「系譜」「再検討」についてであるが、第一部の諸論考からわかるのは、呪術(magic)は広範な西欧近代の知的世界を横断し問題として共有される一方で(科学や宗教に対する呪術)、その問題の具体化は、それぞれの文化圏(国民国家/言語圏)によって多様であることである。「これまで宗教学ないし人文社会諸学の『呪術』概念が問題にされる際は、そこに西洋諸国間で違いがあるという指摘はなされず、『西洋近代的』と一括りにされるか、個々の学者の呪術論が取り上げられるかだった」(上巻四七頁)が、しかし、「概念を構成する語彙には歴史があり、歴史の中で蓄積されたイメージを無視することはできない」(上巻二九二頁)。こうして「呪術研究」という視点から、西欧の学的世界をより精密に見ることが可能になるのである。次に第二部について。ここに収録された膨大な事例の量には正直圧倒されるとしか言いようがないが、古代メソポタミアの「祈〓呪術」から現代日本のTVアニメーションの「魔法少女」やサブカルチャーまで読み通しての印象は、人類史を通底する深層あるいはダイナミズムの存在である。もちろん、これはいわば単なる印象と言うべきものではあるが、人類史の古代と現代、また洋の東西を繋ぐ結節点として「呪術」は位置づけ得るのではないだろうか。なお、書評者としては、システムにおける「複雑性の縮減」、「生物学的合理性」、「マギア」と広義の「神秘主義」概念の重なり、といった論点を繋ぐと面白い議論ができるのではないかなどと、想像をめぐらした。呪術は魅力的な題材である。
これまで紹介してきたように、本論集は現代日本の宗教研究における良質で豊かな研究成果と評すべきものであるが、「狭義の〈呪術概念論〉」あるいは呪術の厳密な概念規定を提示することはめざされておらず、したがって、本論集の議論はさらなる問題連関へと開かれている。とすれば、書評者の立場から、いくつかの議論の追加の可能性を示唆することは、的外れではないだろう。たとえば、「呪術」は近代的学問の成立の文脈において多様な仕方で論じられてきたわけであるが、近代科学(近代的学)のモデルとなった科学革命の担い手(特にニュートン)が、近代科学的知と呪術的知の両方にまたがる世界に生きていたことは注目すべき問題と思われる。科学的知と呪術の関係は実のところいかなるものだったのだろうか。また、呪術は近現代の文学作品の題材であるわけだが、たとえば、トーマス・マンの『魔の山』などを介するならば、呪術は欲望(病いを癒されたい)や身体へと、つまり医療人類学的な問題設定へ繋ぐこともできるはずである。本論集を手がかりに、読者は「呪術」という魅力的世界の探求を続けることができるのである。さらなる思索への招待。これが本論集の魅力である。

この記事の中でご紹介した本
「呪術」の呪縛」上/ リトン
「呪術」の呪縛」上
著 者:江川 純一、久保田 浩
出版社: リトン
「「呪術」の呪縛」上」は以下からご購入できます
「呪術」の呪縛」下 / リトン
「呪術」の呪縛」下 
著 者:江川 純一、久保田 浩
出版社: リトン
「「呪術」の呪縛」下 」は以下からご購入できます
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