ウィリアム・モリスの遺したもの  デザイン・社会主義・手しごと・文学 書評|川端 康雄(岩波書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年6月5日 / 新聞掲載日:2017年6月2日(第3192号)

ウィリアム・モリスの遺したもの  デザイン・社会主義・手しごと・文学 書評
多彩なモリスの人間像 
「部分」を実証的に詰めて「全体」を捉える

ウィリアム・モリスの遺したもの  デザイン・社会主義・手しごと・文学
著 者:川端 康雄
出版社:岩波書店
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ウィリアム・モリスは一九世紀後半に英国で活躍した。文学好きな人にとっては詩人・ファンタジー作としてのモリス。民芸愛好家なら柳宗悦との関連で、生活と芸術を一致させようとした「アーツ・アンド・クラフツ運動」の中心人物としてのモリス。デザイン畑の人や室内装飾に関心のある女性ならば自然の樹木や草花などをモチーフにした特徴的なテキスタイルデザインで有名な「モダンデザインの父」である装飾デザイナーとしてのモリス。書物愛好家ならば晩年の『チョーサー作品集』その他の彩色写本を出版したケルムスコット・プレスのモリス。思想家なら社会主義者としてのモリスとなるだろう。以上大まかに見てもモリスは多面的な顔を持つ。多才なモリスをどのように捉えるか肝心のところだ。

半世紀ほど前には文学部の英文学科では詩人・ファンタジー作家としてのモリスの文学テキストを対象とするのが当然のことであった。著者の師である小野二郎の『ウィリアム・モリス―ラディカル・デザインの思想』(一九七三)では、文学テキストは一部であり、扱う範囲があまりに広範でアカデミズムからは逸脱した感じであった。時代をはるかに先取りしていたのだ。高度経済成長を成し遂げて、TVやPCが流布して生活の質が問われる現時点で、小野のモリス論を読み直してみるとモリスの世界が現在必要とされるものであることが分かる。同時にいかに総体としてのモリスを理解するかという問をつきつけられる。それに対する小野の答えは、モリスの「諸活動に底流する一つの精神とその運動の形式を想定」して、モリスの思想は「運動の思想であり運動の理論」であると措定する。モリスを真に必要とするときにその本質が現れる。部分に徹するときに全体が現れるという。キーワードの一つが「役に立つ」ということだという。それに「美」を加えて「役に立つ機能的な美」とすると分かりやすい。

著者の川端氏はモリスの著作を勢力的に研究・訳出して本邦におけるモリス学の系譜を確立しているところと見受けられる。本書では小野の言う「部分」を実証的に詰めて「全体」を捉える試みをしている。振幅が大きく、多彩なモリスの人間像が三部に分けて論じられている。第一部「タペストリーの詩人」ではモリス自身の仕事に関する論考で全六章。第二部「日本への波動」では、日本におけるモリスの受容に関する論考で全五章。第三部「ヴィクトリア朝と現代」ではモリスが影響を受けたジョン・ラスキンを中心に、当時の状況を論じる全四章から成る。註も綿密で工芸で言えば職人芸で手抜きがない。

第一部の五章「奇妙な二人組」で著者はE・B・バックスに紙数を割いている。バックスは『社会主義―その成長と帰結』のモリスと共著者であり、本邦初紹介の人物だが、モリスによれば真の意味ですべての文章が二人の「協同作業」だという。モリスの後年の言葉「建築のあらゆる仕事は協同の仕事である」がいみじくも示しているように「協同」を著者はモリスを解くキーワードとして提示している。モリスが新婚時代数年を過ごしたレッドハウス。六一年設立の「美術職人集団」モリス・マーシャル・フォークナー商会。七五年に独立したモリス商会。九〇年に創設のケルムスコットプレス。すべてモリスが重要人物ではあるが、ラアフェル前派の仲間との協同作業である。後年の社会主義者としての政治活動は言うまでもない。

評者には第二部「日本への波動」が興味を惹いた。初期のモリス紹介者としての大槻憲二、モリスが影響を受けたジョン・ラスキンに魅せられて世界に冠たるラスキン文庫に一生を捧げた御木本隆三、ラスキンとモリスの影響を受けての命名と思われる羅須地人協会と宮沢賢治、それに日本の民芸の父ともいえる柳宗悦、著者の師の小野二郎。各人が協同の達人である。あらためて芸術および思想は時を超えるが、また海をも越えるということを実感した。お勧めしたい好著である。
この記事の中でご紹介した本
ウィリアム・モリスの遺したもの  デザイン・社会主義・手しごと・文学/岩波書店
ウィリアム・モリスの遺したもの  デザイン・社会主義・手しごと・文学
著 者:川端 康雄
出版社:岩波書店
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