集団就職 高度経済成長を支えた金の卵たち 書評|澤宮 優(弦書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年6月12日 / 新聞掲載日:2017年6月9日(第3193号)

集団就職 高度経済成長を支えた金の卵たち 書評
日本が辿ったさまざまな変遷に思いを馳せる貴重なドキュメント

集団就職 高度経済成長を支えた金の卵たち
著 者:澤宮 優
出版社:弦書房
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「金の卵」という言葉があった。経済高度長以前、工場や大企業に乏しく、貧しかった東北、九州地方で、高校進学できない中学卒業生たちが、大挙して京浜、中京、関西の大都市圏に就職先を求めてやってきた。彼等を“やがて金を生む存在”だといったのである。

まだ幼い彼等が集団で家郷を離れ、そのためにしつらえられた列車に乗ってくる、その哀愁に満ちた情景を描いた『あゝ上野駅』という流行歌は一世を風靡した。それもあって「集団就職」とは東北から東京へ、の現象と思い込んでいる人も多い。著者はそこで、敢えて九州、沖縄からの集団就職者に対象を絞って、彼等男女二十三人の、その後五~六十年に及ぶ軌跡を追った。読みながら、ここ半世紀の日本という国が辿った、さまざまな変遷に思いを馳せざるを得なくなる、貴重なドキュメントだ。

戦前の軍関係の学校(陸軍幼年学校、海軍兵学校など)への入学者の比率は、東北、九州が大きかったという統計を見たことがある。相対的に貧しい家庭が多く、学費のいらないこの種の学校を選ばざるをえなかった、という事情もあると聞いた。貧しさは戦後も変わらず、高校への進学率の低さも中卒集団就職率の高さも、この地域特有のものがあった。「金の卵」たちの親も一様に貧しかった。その上、子沢山だった。乏しい稼業を継ぐ者以外の兄弟姉妹は、どこかに「食うための途」を探さざるを得なかった。彼等はみんな、両親の生活の苦労をまじかに見て育っている。早々と自立の途を求めなければならない境遇もよく理解している。天草から熊本発の就職列車に合流するために、汽船で出発する子どもたちを送る親や教師は「数本のテープを握り締め、共に泣きながらの見送りは出征兵士を送る思いでした」とある教師は語っている。送るも送られるも、まさに“出征”の心境だったことだろう。

受け入れ先にもさまざまな企業があった。おしなべて賃金は安く、労働条件は今日に比して遥かに苛酷だった。馴れない集団生活や方言差別に押しつぶされることもあった。著者が接した二十三人の中には、その後最初の企業で、定年までを全うした人もいる。転職を繰り返した人もいる。機をとらえて一家を成し、企業経営者となった人もいる。百を越える「資格」を取得した人もいる。就職数年にして、同じ境遇の男と結ばれた人もいる。“闇の世界”“夜の世界”に消えた同輩を持った人もいる。「高卒以上という制限がかけられ、選ぶ範囲が狭く」転職も大変という事情もあった。この書でとりあげられた様々な人生から見えてくるのは、しかし、この人たちの真摯な「勤労・勤勉の精神」とでも呼ぶべきものであり、このような境遇に自分を置かざるを得なかった親への温かさだ。「地の塩・世の光」という聖書の言葉も想起される。日本の底のどこかで、何によってこれが培われたのか。ウェーバーのひそみに倣って言えば“儒教の倫理”だろうか。「俺は小さいうちから仕事はどんなことがあってもやるものだと思っていた。楽しいとか楽しくないとか全然思っていない。仕事だからするのが当たり前」という登場人物の一人の言葉を引いて、「早い内から将来の目標を決めさせ、自分にあった仕事選びを教育する今日の適職探し」が本当にいいことなのか、「あの時代、働かなければ本人も家族も生きてゆけなかった人たちの人生を辿ることで、働くことの意味を再確認すること」がこの本の意義だ、と著者はいうが、さまざまに考えを誘うところの多い本だ。
この記事の中でご紹介した本
集団就職  高度経済成長を支えた金の卵たち /弦書房
集団就職 高度経済成長を支えた金の卵たち
著 者:澤宮 優
出版社:弦書房
「集団就職 高度経済成長を支えた金の卵たち 」は以下からご購入できます
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