みみずくは黄昏に飛びたつ 書評|川上 未映子(新潮社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年6月19日 / 新聞掲載日:2017年6月16日(第3194号)

みみずくは黄昏に飛びたつ 書評
躍動感に満ちたインタビュー集 
終始行われている誠意ある言葉の往復

みみずくは黄昏に飛びたつ
著 者:川上 未映子、村上 春樹
出版社:新潮社
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村上春樹へ、川上未映子がいくつもの問いを投げかける。本書は躍動感に満ちたインタビュー集だ。全部で四章から構成されるが、2015年におこなわれたインタビューの記録である第一章の他はすべて、今年になってからの内容(語りおろし)で、そのタイミングもあって、先ごろ刊行された村上の小説『騎士団長殺し』にもかなり具体的に触れられている。

このインタビュー集のよいところは、読者がそれぞれの距離感や観点に立って読むことが可能という点だ。つまり本書から何を受け取るかはまったく読者の立場や考え方しだいだ。小説の読者にとって、開かれたもの、引きつける話題を集めたものとなっていることはもちろんだが、大事な問題提起や指摘が対話の結果として導き出されている点から見て、書き手たちにとっても興味の尽きない対話が展開されている。

問いへの答えには、これまでも村上が繰り返し書いたり語ったりしてきた内容もある。けれど、本書では、過去とほとんど重複する内容からも、とてもいきいきした語りの雰囲気が感じられる。そこから、川上がいかにすぐれた聞き手だったか、伝わってきて愉しい。

双方とも、読書や執筆のみならずあらゆる事柄についてどんな考え方をしているか、深部をさらすことになる。終始、誠意ある言葉の往復が行われている本書は、どんな読者にとっても、言葉とは何か、読むことや書くこととは、といった心の動きを促すに違いない。

小説を三人称で書くか一人称にするか(『騎士団長殺し』は一人称)という選択の問題とそこから生じる小説の可能性。村上にとって小説を書く上でもっとも大切なのはボイス、語り口、リズム、文体や文章そのものであるという言及。小説を書き続ける中で文章は変わっていくこと。「日本の私小説」に多く表されている事柄や「近代的自我」がたとえば建物の「地下一階」であるとすると、「地下二階」は、人間や物語の「集合的な無意識」に関わる部分であり「古代的なスペース」だという言及など。

人称や文章についての話題は、二人の小説作品に即して語られている点で、わかりやすい。「地下二階」やフィクションについて、川上は〈世界中のすべての出来事が、物語による「みんなの無意識」の奪い合いのような気がしてくるんです〉と述べる。そうかもしれない。人間の活動はじつはすべてそういうものかもしれない。そんな中、書き続けるとはいったいどういうことだろうか。

村上は自分の小説は「洞窟スタイル」だと語る。〈古代、あるいは原始時代のストーリーテリングに効用みたいなところに戻っていく気がするんだけど〉と。社会的な事件や問題を非常に直接的に扱うことに関してはどうかと、川上は訊ねる。村上は〈いったん自分の中をくぐらせ、物語の一部として変更した形でなら、現実のものごとをフィクションに持ち込めますが、ナマのメッセージとして持ち込むことは、僕には無理ですね。そういうことはしたくない〉と応じ、従来と同様、慎重な考え方を示す。

村上の小説における女性の描かれ方について、作品の執筆ペースや推敲の仕方などについても、突っ込んだ質問が投げかけられる。返答は具体的で面白い。読者に、言葉の動きを見せ、言葉を考えること、味わうことを知らせる、じつに密度の濃いインタビューだ。
この記事の中でご紹介した本
みみずくは黄昏に飛びたつ/新潮社
みみずくは黄昏に飛びたつ
著 者:川上 未映子、村上 春樹
出版社:新潮社
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