洋服デザイナー・帽子千秋さん (下)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年6月27日 / 新聞掲載日:2017年6月23日(第3195号)

洋服デザイナー・帽子千秋さん (下)

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帽子千秋さん
愛媛県大洲市に「Sa―Rah」という店を持ち、オリジナルの洋服を販売する帽子千秋さん。愛媛県から都内各地へ、さらに今年九月には、新潟市美術館のミュージアムショップで“「Sa―Rah」のお洋服展”を開催するなど、新しい場所での新しい出会いを求めて、帽子さんの洋服が、全国各地を行ったり来たりしている。どんなふうに計画していったのだろうか?

「今の私がこんな仕事をしているなんて、全く想像もしていなかった」と帽子さん。

もともとは保育士になりたくて、短大の保育科に入学。しかし卒業後、地元の保育所の就職試験に、残念ながら落ちてしまった。

銀行に入行するが、その後結婚して出産。子育てを精一杯やりたくて、パートへと勤務形態を切り替える。この時、長女の洋服づくりを見よう見まねで始めるが「アップリケがついているような可愛いものより、シンプルなものを着せたくて、既製品をかなり研究した」という。そのうち、「その服、どこで買ったの?」とママ友に言われるようになり、娘に作った同じ服をフリーマーケットで売ってみると、「これが、すぐに売れてしまうんです」。いただいたお金で生地を買い、また新しく作って売る。HPで、二人の子供たちをモデルに、子供服の紹介をしてみる。そのうちに松山市内のカフェのテラスを借りて、展示会も開いてみた。次の展示会にも同じ方が来てくれた。「皆さんが私の作る服を買ってくれるのを見て、お店を構えてみようと。私がお店を作ることで、服に信頼が生まれると思ったんです。そこに私がいれば、作り手のことがより伝わるし」
大洲市にある「Sa―Rah」の店内
 帽子さんには、地元をベースに周りの人を大切にする「根のある暮らし」と、インターネットを駆使した発信力の巧みさ。この二つが実にバランスよく保たれている。

最初にフリーマーケットで始めた「お店屋さんごっこ」は、規模こそ違うけれど今の「Sa―Rah」を経営する帽子さんの根幹をなしている。「今のやり方で何とか回っているけれど、いつどうなるかはわからない。だから今を精一杯生ききっていたい。中途半端ではなく、メーターを振り切ってしまうくらいやっていたいんです」

「私ね、ものづくりはごみづくりだと思っているんです。いつかゴミになるものを生んでいる。特に洋服は面積も大きいから、なるべく出番があって、できる限り元を取ってもらって、着倒してほしいんです」

取材した翌々日から、韓国での展示会だという。韓国は初めての開催だが、各地の展示会もなるべく数日は顔を出す。オーナーの方との語らい、新しいお客様との出会いもそこに行かなければ得られない経験だという。「私にとっては東京も大阪も海外と同じ。パスポートがいるかいらないかだけの話なんですよ」

「Sa―Rah」を訪れて、驚くことがあった。私が創刊した『私のカントリー』。この三月で一〇〇号を数えるが、二〇〇六年の五十七号で、帽子千秋さんのお宅のインテリアを、掲載させていただいていた。編集兼発行人として、私の名前が奥付のページに記されていたのを見た時は、二人で声を挙げた。その後、創刊した『COTTON TIME』にも何度も作品が取材されたという。二〇〇六年に帽子千秋さんに誌面で出会っていた。十一年も前からご縁があったんだ! 帽子という姓は珍しい。掲載誌を見せられた時に、「このページに記憶がある」とはっきりと蘇った。

どこにでもたくさんの出会いはあるが、そこで終わってしまう人と、そこから何かが始まる関係。この違いは何なのだろう、と今回大洲市まで出かけてみて、つくづく考えた。自分で選んでいるようで実は、何か目に見えないものの力に、引き合わせられている。その根底に、いったい何が隠れているのか。これからも私は、帽子千秋さんの全力で生きる姿を、折に触れて見ていたいと思う。(おわり)

※「Sa―Rahのお洋服展」
◇~6/25:moln(鎌倉市御成町13―32 2F)
◇6/27~7/8:fairedesbonds(名古屋市中村区名駅4―16―24名駅前東海ビル204)
◇7/11~7/24:恵文社一乗寺店(京都府京都市左京区一乗寺払殿町10)他
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