幸福のパズル 書評|折原 みと(講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年6月26日 / 新聞掲載日:2017年6月23日(第3195号)

幸福のパズル 書評
二人の結末は分かっていても
虚飾に満ちた世界に生きる中で明確な身体性によって掴む幸せ

幸福のパズル
著 者:折原 みと
出版社:講談社
このエントリーをはてなブックマークに追加
幸福のパズル(折原 みと)講談社
幸福のパズル
折原 みと
講談社
  • オンライン書店で買う
大変美しい恋愛小説である。長い月日を経て貫かれる純愛と呼ぶにふさわしいふたりの気持ちに、読みながら涙することしばしばだ。しかし、ただのいい話で終わらせないためにも、ちょっとひねくれた目で見てみたい。

ヒロインはクラスで目立たなかったおとなしい女の子だったのに今をときめくベストセラー作家に。ヒーローは美形、頭脳明晰、性格良しで老舗ホテルの跡取り息子。こんなふたりの恋を幾多の試練が襲う。でも、読者からすれば結末は最初からわかっている、このふたりにそれ以外の道はないと。そして読み進めれば進むほど確信できるはずだ。ヒロインのみちるが物語の終盤に、自らの人生をパズルにたとえ、一つ一つのピースがはまっていく実感を語るが、ジグソーパズルは元々完成した絵が先にあるものなのだから。

ふたりに降りかかる悲劇は、他人の欲に振り回されるものから、自らが必然として取る行動に起因するものまでさまざまだ。ヒロインのみちる側に立ちはだかるのは、まず彼女が作家になってからの変化に起因するものが挙げられる。女子高生作家で話題になりデビューからベストセラーを連発した彼女は大金を手にすることになり街のパン屋を営む素朴で愛情あふれる家族を変えてしまう。エステやブランド物に溺れるようになった母が起こすスキャンダル、分不相応なレストラン経営に乗り出した父にのしかかる金銭問題から引き起こされた暴走、そして元々作家志望だった妹の嫉妬と劣等感による策略。ヒーローの優斗側に立ちはだかるのは主に「家」に起因する、実家の老舗ホテルの経営問題とそれをめぐる大手チェーンホテルの令嬢との結婚問題、また母親が家の格式でみちるの実家を嫌うといった問題だ。これに出版社の引き抜きや編集者同士、作家間での嫉妬や読者によるストーキングという問題が複雑に絡んでくる。こうしてみると、いかに虚飾に満ちた世界に生きているんだろうと思い知らされる。ここに描かれた見栄や欲は今の世の中どこでも想像に難くないものだから、罠にかかる気持ちもわからなくはない。

一方で、どんな困難があってもこのふたりなら大丈夫と思わせてくれる根拠も物語の中には張り巡らされている。まずふたりの出会いは海である。そして優斗は初めて海に入るみちるの手ほどきをし、二人の仲は深まっていく。海は身体中の細胞を感じつつ、全身で挑まなければならない相手ということが繰り返し強調される。またみちるは現代の小説家としては異例の「手書き派」であり、手を怪我しても小説の言葉には手を動かして書く過程が必要だと主張する。こうした明確な身体性によって得られるものは、先に述べたような虚飾と対極的な位置づけにある。生きている実感、とでも言うべきだろうか。生きていくことを強く意識したみちるの行動は、担当編集者の実家で経験した農作業を経て、どんどん体を張ったものになってゆく。ヒロインがヒロインたりうる行動が実体を伴ったあざやかなイメージとして立ち上がってくる。

もう一つ、セキセイインコのチッチとイメージが連動した形で『青い鳥』の童話がたびたび登場するのも、ふたりのハッピーエンドへの布石となっている。しかしこの物語に関しては、妹のはるかによって、さらに一般に知られているのとは違うエンディングが示唆されているのも注目に値する。

ハッピーエンドに至るまで大変だったし、今後も前途多難かもしれないけれど、このふたりが掴んだのだからきっと揺るぎない幸せに違いないと確信できる。
この記事の中でご紹介した本
幸福のパズル/講談社
幸福のパズル
著 者:折原 みと
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
神田 法子 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
文学 > 日本文学 > 恋愛関連記事
恋愛の関連記事をもっと見る >