編集者の生きた空間  東京・神戸の文芸史探検 書評|高橋 輝次(論創社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年6月26日 / 新聞掲載日:2017年6月23日(第3195号)

編集者の生きた空間  東京・神戸の文芸史探検 書評
古本渉猟で得た資料から編集者の足跡を跡付ける

編集者の生きた空間  東京・神戸の文芸史探検
著 者:高橋 輝次
出版社:論創社
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著者は創元社勤務を経て、フリーの編集者として、さまざまな本を編集してきた。編集者ならではの視点で、原稿依頼、誤植などをテーマにアンソロジーを編んでいる。それとともに、日々の古書渉猟で得た資料から、文学史、出版史における編集者の足跡を跡付けようとしている。

本書は「編集部の豊穣なる空間」「編集者の喜怒哀楽」「神戸文芸史探検抄」「知られざる古本との出逢い」の四部構成。なかでも、出版社の編集部の風景を紹介した第一部が興味深い。著者は『著者と編集者の間』(武蔵野書房)、『関西古本探検』(右文書院)でも同様の試みをしている。

砂子屋書房は太宰治の『晩年』をはじめ、新進作家の第一創作集を刊行した。尾崎一雄が『暢気眼鏡』で芥川賞を受賞したとき、社主の山崎剛平は旅行に出かけており、増刷できたのは一カ月後という暢気さだった。その編集部はこんな感じだ。
「前を見ても、後をふり返っても、右を眺めても、左に眼を向けても、本ばかりの中で、私はキョロキョロしながら杯を重ねた。(略)話は枝から枝と延びて涯しがない。そこからもりあがる和やかな、それでゐて少しもゆるみのない雰囲気。一年ほど田舎にゐた私は少々とまどひながらも、少しづつ心が軽く浮きたってくるのを感じた」

これは新入社員の回想で、その場には社主の山崎剛平や尾崎一雄、当時書房を手伝っていた宮内寒彌がいた。先輩たちの話を聞きながら、これからやる仕事に高揚感を抱く様子が初々しい。私も自分が新米編集者だった頃を思い出した。

著者は、古本市で買った本の中に、やはり書房を手伝った詩人の大木実の評伝を見出す。そこには、大木が書いた砂子屋書房の見取り図が入っていたのだ。本書にも転載されたその図を見ると、「アケズの間(返品の木)」とあり、売れない本を出していた苦労が偲ばれる。

また、山川方夫が中心となった第三次「三田文学」の編集部は、銀座の並木通りにあり、さまざまな人が出入りした。その一人だった曽野綾子は「ここには窮屈な枠に縛られない、自由な空気があった」と回想しているそうだ。

著者は、作家や評論家になった人物が、若くて無名の頃に編集者として働いた例に興味を持っているというが、たしかに、そこには多くのドラマがある。たとえば、新進作家として注目された楢崎勤は、「新潮」の編集者として文壇を牽引したが、作家としては不遇に終わった(大村彦次郎『文壇さきがけ物語』ちくま文庫)。

編集部ではないが、第三部に出てくる神戸の「化物屋敷」も人が集まる拠点だった。このオランダ風木造のぼろ洋館には、画家のアトリエがあり、前衛的な遊びが行なわれたという。

人と人が出会う場所に、文化が生まれ、本が生み出されるのだ。

著者は、自分が興味を持つ人物やテーマに関する本を求めて、古書店や古本市に日参する。そして、マイナーな文芸同人誌や数十部しか発行されなかった私家版を手に入れる。それらの資料は、本書に存分に生かされている。

いま調べている詩人の本が、古書店の百円均一台でひょっこり見つかる。「奇跡が起こった瞬間であった」「やっぱり古本の神様はいるんだ」と驚喜する様には、古本好きなら共感するだろう。

しかし、のちに見つかった資料を紹介するにしても、本論の後に注釈が入り、その後にいくつもの追記があり、さらにその注釈が入るというスタイルは、増改築を繰り返した家のようであり、論旨が飲み込みにくい。あとがきで、いまだに手書きだからと言い訳しているが、それこそ編集者の立場になって、読む人のことを考えてほしいものだ。
この記事の中でご紹介した本
編集者の生きた空間  東京・神戸の文芸史探検/論創社
編集者の生きた空間  東京・神戸の文芸史探検
著 者:高橋 輝次
出版社:論創社
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