文化の遠近法―エコ・イマジネールⅡ 書評|蔵持 不三也(言叢社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年7月10日 / 新聞掲載日:2017年7月7日(第3197号)

文化の遠近法―エコ・イマジネールⅡ 書評
地に足を根づかせた豊饒な社会的想像力 
ばらばらな地域、時代、対象による普遍性の提出

文化の遠近法―エコ・イマジネールⅡ
編集者:伊藤 純、藤井 紘司、山越 英嗣
監修者:蔵持 不三也、嶋内 博愛
出版社:言叢社
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現代の現実社会は、そこに生きる人間の内在的展開力によってではなく、外在的な作用、たとえば、政治・経済によって、大きく左右されるようになった。そこかしこの地域社会がみずから蓄積してきた文化事象が、ときに、圧倒的な政治権力によって消滅させられることすらある。

ほんらい、地域社会はそれが豊かにはぐくんだ土着文化を持つ。それが、未来を拓く先鋭的思想に昇華することは少ないだろう。しかし、そこには、形而上的ではない、地に足を根づかせた豊饒な社会的想像力がひそんでいる。

三部構成全一三編の論考からなる本書は、その社会的想像力を、あるときは歴史的世界に、またあるときは、現代の儀礼と表象のなかに、卓抜な読み解きを試みる。その方法の基点は、対象化した現実を「遠近法」、あるがままにとらえることであった。それは、著者たち自身による、緻密な事例研究とそれの体系的整理、いっぽうでの、豊かな想像力を必要とする。

冒頭の蔵持不三也「奇蹟の歴史人類学」は、一八世紀パリ民衆の内在的論理のなかに、社会的想像力を読み解く、そのお手本のような仕事であろう。一八世紀パリ、民衆はなぜ奇蹟を求めたのか。「聖遺物」を求める民衆の心性とは。それは権威者「大司教」の論理とは異なる。奇蹟にすがった民衆には、彼らなりのコンテクスト、期待があった。続く三編、松平俊久「西欧怪物の転位性」はギリシア神話の怪物キマイラ表象の歴史的展開に、嶋内博愛「ヌーデルから考える」はドイツのヌーデル食文化の多様性に、出口雅敏「グローバル化時代の日本像」は現代フランスのクール・ジャパン現象――現代ジャポニスムに、社会的想像力を浮き彫りにする。

これらは本書の第一部四編である。論文集であるために、全編を通じての共通の対象が設定されているわけではない。しかし、それぞれの対象が持つ社会的想像力の復原は成功している。

第二部三編は、機能主義的方法を基底に潜めた、表象論・生態系論と読むことが可能であろう。村田敦郎「自己と世界性の人類学」はバリ島テルテラン儀礼によるバリ島民独自の心身二元論、山越英嗣「想像の共同体としてのプエブロ」は南部メキシコのアーティスト集団ASAROによる民衆芸術、藤井紘司「八重山諸島の近海航海者」は八重山諸島における異生態系間の交流を、それぞれの対象に即して復原する。表象論にせよ生態系論にせよ、それらの目的は、その地域社会のコンテクストを内在的に理解し、そこにひそむ網の目を解きほぐすことにある。第二部はフィールドからの実践であった。

第三部六編は、日本列島をフィールドとする多様な地域研究である。瀧音大「日本列島における勾玉の分布・遺跡数・材質からみた時期変遷」は勾玉の歴史的変遷を明らかにした緻密な考古学的研究、ソウ圭憲「年中行事における来訪神祭祀と仏教民俗」はコト八日を仏教民俗としてとらえた儀礼研究、松田俊介「食責め儀礼における民衆文化の処世の構図」は修験系強飯式にみる現代的要素の抽出、伊藤純「風流獅子舞文書にみる芸能伝承ダイナミズム」は民俗芸能伝承における文字文化の重要性の解明、山崎真之「戦前の博覧会出展物からみる小笠原表象」は博覧会から読み解いた小笠原諸島表象の解明、小林孝広「越境する小商いサリサリストア」は日本在住フィリピン人の小商人研究である。

本書が扱う対象は、西ヨーロッパからアメリカ大陸、太平洋、そして、日本列島と、あまりに多彩である。時代も異なる。あえていえばばらばらである。しかし、このばらばらな対象、それぞれにおいて、豊饒な社会的想像力が復原されている。対象がばらばらであることはマイナスではなかろう。いずれの地域社会、歴史的社会にもわたしたちは、豊かな社会的想像力が存在することを感じとることができる。社会的想像力の普遍性の提出が、おのずと成功している、そのようなすぐれた論文集であった。
この記事の中でご紹介した本
文化の遠近法―エコ・イマジネールⅡ/言叢社
文化の遠近法―エコ・イマジネールⅡ
編集者:伊藤 純、藤井 紘司、山越 英嗣
監修者:蔵持 不三也、嶋内 博愛
出版社:言叢社
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