一故人 書評|近藤 正高(スモール出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年7月10日 / 新聞掲載日:2017年7月7日(第3197号)

一故人 書評
テーマに沿ってフィルタリング 
そこに見える書き手の矜恃

一故人
著 者:近藤 正高
出版社:スモール出版
このエントリーをはてなブックマークに追加
一故人(近藤 正高)スモール出版
一故人
近藤 正高
スモール出版
  • オンライン書店で買う
誰もがSNSが手放せなくなったこの時代。

ふと「死ぬに死ねない」と思うことがある。

そう思うのは誰かしらが、物故したことが報じられる時だ。途端に、様々な「追悼」の言葉が流れる。だが、純粋に故人を悼むものは少ないもの。

追悼の一文の後には、必ずといってよいほど自分が故人と人生の中でいかに絡んだか。あるいは影響を受けたかのような言葉が綴られるのである。結局は、故人の追悼を装った、自慢や自己憐憫、なにがしかの共感を得たいという安い欲望の発露にすぎないのだ。

とりわけ世に知られた著名人であればなおさらである。だから、この苦しい世の中でもサッサと死ぬのは避けたい。むしろ自分の属するコミュニティの中で最後まで長寿を保ち「俺史観」を存分に語ったほうがよいかも知れぬとも思う。

さて、この本は、そうした凡庸で軽薄な訃報商売とは一線を画すものだ。著者の近藤は、これまで様々な作品を著している。それも商業だけでなく同人誌即売会・コミックマーケットに出展し自らの同人誌も頒布しているのだから、物書きとして屹立することに人生を賭けた人物であることに疑いはない。だから、ここに収録された著名人たちの人生模様の、ひとつひとつが際立つのである。

例えば、山口淑子(李香蘭)の章では、冒頭で山口が田中角栄から「ヘリコプターを出すからすぐに来い」と長岡に呼ばれたエピソードを綴る。山崎豊子の章では取材相手に泣かれた話が立て続けに紹介される。土井たか子の章では、実は「マドンナ」という言葉が嫌いだったという逸話も。それらの忘れられた逸話は、近藤が様々な書籍や雑誌記事などから見つけたものばかりだ。

資料を探す物書きにとって、ごくごく当たり前のことに本書の真価がある。埋もれる膨大な資料を発掘し、それを自分の書きたいテーマに沿ってフィルタリングする。そこには、書き手の意志が明確に繁栄される。単に適当に文章を拾ってきて引用しているのではない。でも、そんな物書きにとっては、いわば当たり前の作業は評価されないという風潮がある。

昨今、大宅壮一文庫の経営危機は幾度も報じられている。物書きを生業にするものであってもネットで適当に見つけた情報でお茶を濁そうとする。雑誌などから、本人すらも忘れていたエピソードを見つけ出す作業は、とてつもなく面白いものなのに、それを見いだす者は少ない。

本書の初出はウェブサイト「cakes」。その読者たちには、近藤が記事を通して伝えている、書籍や雑誌から埋もれた情報を発掘することの楽しさは伝わっているのだろうか。そんなことを、考えた。
この記事の中でご紹介した本
一故人/スモール出版
一故人
著 者:近藤 正高
出版社:スモール出版
以下のオンライン書店でご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
昼間 たかし 氏の関連記事
近藤 正高 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
学問・人文 > 伝記関連記事
伝記の関連記事をもっと見る >