明屋敷番秘録 謀 / 鈴木 英治(徳間書店)プロ作家へと導いた初受賞の顛末  読者のために意を尽くして書く|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年7月31日 / 新聞掲載日:2017年7月28日(第3200号)

プロ作家へと導いた初受賞の顛末 
読者のために意を尽くして書く

明屋敷番秘録 謀
著 者:鈴木 英治
出版社:徳間書店
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私をプロ作家に導いてくれた作品は『駿府に吹く風』という戦国物だった。今から二十年近く前、この作品を書くための着想を小和田哲男氏著の『桶狭間の戦い』から得た私は、さっそくプロットづくりをはじめた。

プロットに三ヶ月、執筆に八ヶ月、さらに推敲に一ヶ月と、ちょうど一年がかりで『駿府に吹く風』は完成した。この作品は当時、講談社が主催していた賞金一千万円の「時代小説大賞」に応募しようと考えていた。この賞の上限は原稿用紙五百枚だった。

ところが、いざ『駿府に吹く風』を書き上げてみると千二百枚をはるかに超えていた。

これでは「時代小説大賞」どころか、どこにも応募できる賞はない。『駿府に吹く風』は一年以上、フロッピーにおさまったまま眠りにつくことになった。

その風向きが変わったのが1999年。この年、角川春樹小説賞が創設されたのである。なにしろ、この賞には応募枚数の上限がなかったのだ。当時、愛読していた『公募ガイド』の応募要項を繰り返して読んで、上限がないのを何度も確かめた。

これなら出せる。久しぶりにフロッピーから『駿府に吹く風』を呼び出し、さらなる推敲を進めて、納得がいったところでプリントアウトした。そして、できあがった原稿をいそいそと角川春樹事務所宛に郵送した。

あとは結果を待つのみだったが、その後、何ヶ月ものあいだ、角川春樹事務所から音沙汰はなかった。もし最終選考に残ったのなら、連絡があるはずの時期は、とうの昔に過ぎていた。これは落ちたのだな、と暗澹と思っていたのだが、その年の十一月もあと数日ばかりというとき、部屋の電話が鳴り、『駿府に吹く風』が最終選考に残ったことを知らされた。

後日、なぜ連絡があんなに遅かったのですか、という私の問いに、私の担当に決まった編集者が、連絡担当の者が電話するのを忘れていたみたいです、とこっそり教えてくれた。

私は唖然とするしかなかった。
『駿府に吹く風』は角川春樹小説賞の大賞受賞はならなかったが、当時の選考委員だった森村誠一氏の推薦をいただいて特別賞となり、同時に『義元謀殺』と改題されて私をプロ作家へと導いてくれた。

今の角川春樹小説賞には、五百五十枚という上限がある。これは私のせいで上限が設けられたと聞いている。

デビュー前は、小説を書くのが楽しくてならなかった。だから千二百枚を書くのも、なんということもなかった。プロとなった今は、苦しさのほうがどうしても先に立つ。

それでも、今もデビュー前と変わらないことが一つある。読者のためにおもしろいものを書こうという思いだ。

新シリーズとして徳間書店ではじまった『明屋敷番秘録 謀』も読者のために意を尽くして書いた作品である。楽しんでいただけたら、と心から思う。(三三六頁・六六〇円・徳間書店)
この記事の中でご紹介した本
明屋敷番秘録 謀/徳間書店
明屋敷番秘録 謀
著 者:鈴木 英治
出版社:徳間書店
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