望月のうさぎ 江戸菓子舗照月堂 / 篠 綾子(角川春樹事務所)もなかと草餅と菓銘 和菓子の雅な世界に心奪われて|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年7月31日 / 新聞掲載日:2017年7月28日(第3200号)

もなかと草餅と菓銘 和菓子の雅な世界に心奪われて

望月のうさぎ 江戸菓子舗照月堂
著 者:篠 綾子
出版社:角川春樹事務所
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和菓子に付けられた特別な名を「菓銘」という――そのことを知ったのは、二年ほど前でした。

〈牡丹餅〉〈お萩〉――といったように、時節によって名が変わり、その季節ならではの花の名を取り入れるなど、和菓子の名前には奥深いものがあります。そして、菓銘には和歌を取り入れたものもあると知って、その雅な世界にすっかり心を奪われてしまいました。

たとえば、〈もなか〉にまつわる平安時代の歌。

――水の面に照る月なみをかぞふれば 今宵ぞ秋の最中なりける

秋の「最中」(真ん中)、つまり中秋の月を詠んでいます。その日の宴で出された白い真ん丸のお餅が、夜空の満月のようだというので、丸い餅菓子を〈最中の月〉と呼ぶようになったのだとか。それから歳月を経た江戸時代に、餅菓子ではない、今の〈もなか〉の原型になるお菓子が生まれ、現代に至るようです。

この和歌の、「照る月」から採った「照月堂」という菓子屋さんの名前がぱっと浮かびました。他にも、こんな歌があります。

――花の里心もしらず春の野に いろいろ摘める母子もちひぞ

これは和泉式部が詠んだという伝説の歌です。我が子に贈った菓子に添えられた歌なのですが、〈母子もちひ(餅)〉と歌で詠まれている菓子は、今でいう〈草餅〉でした。昔はヨモギではなく、母子草(春の七草のゴギョウ)を使って草餅を作っていたのだそうです。

実は、二年前、この歌をもとに照月堂を舞台にした「母子草」という短編を書いたのですが、今回の『望月のうさぎ 江戸菓子舗照月堂』は「母子草」より時間を少し前に戻し、照月堂が駒込の小さな菓子屋だった頃を舞台にしたものです。

作中の季節は夏から秋にかけて。葛菓子はもちろん、七夕の銘菓も出てくれば、団子や飴のような庶民の菓子も登場します。さらに、(昔の)最中の月から、ちょっと現代風にも思えるあるお菓子まで――。今ではとても人気のあるお菓子ですが、それはお楽しみとさせていただきます。

和菓子は季節と深く関わるものですが、江戸時代は、菓子職人もお客たちも今よりもっと季節感を大切にしたのだろうと、この話を書きながらしみじみ想像しました。

最後に、主人公のなつめについて。なつめは昔家族と食べた〈最中の月〉という菓子を探し求める、とても真摯な少女です。照月堂の人々に接し、和菓子の魅力にますます取りつかれていくなつめの成長を温かく見守っていただければと思います。そして、なつめと共に、美味しいお菓子を季節の移ろいと共に味わっていただければ幸いです。(二七二頁・六二〇円・角川春樹事務所)
この記事の中でご紹介した本
望月のうさぎ 江戸菓子舗照月堂/角川春樹事務所
望月のうさぎ 江戸菓子舗照月堂
著 者:篠 綾子
出版社:角川春樹事務所
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