puzzle 書評|恩田 陸(祥伝社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年7月31日 / 新聞掲載日:2017年7月28日(第3200号)

祥伝社文庫
本格ミステリのエッセンスが凝縮
恩田 陸著 『puzzle』

puzzle
著 者:恩田 陸
出版社:祥伝社
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puzzle(恩田 陸)祥伝社
puzzle
恩田 陸
祥伝社
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今年、恩田陸は、ピアノコンクールを舞台にした青春小説『蜜蜂と遠雷』で直木賞と本屋大賞をW受賞した。恩田のキャリアからいえば、直木賞は遅すぎた受賞といえるだろう。

恩田は多彩なジャンルの作品を発表しているが、その大きな柱の一つに『象と耳鳴り』『木曜組曲』『ユージニア』などの本格ミステリがある。祥伝社文庫でロングセラーを続けている『puzzle』も、不可能犯罪が連続する恩田らしいミステリとなっている。

物語は、「さまよえるオランダ人」の伝説、スタンリー・キューブリック監督の新作発表会の資料、大正の次の元号をめぐって起こった誤報事件など、脈略のなさそうな断章の羅列から始まる。続いて舞台は、かつては炭坑として賑わったが、今では廃虚マニアが訪れるだけの鼎島に移る。鼎島のモデルは、長崎県の端島(通称・軍艦島)である。二〇一五年に世界文化遺産に登録され、今では観光名所の軍艦島だが、本書が刊行された二〇〇〇年頃は立ち入りが禁止されていて、廃虚マニアか、歴史・建築などの専門家しか注目していなかった。そこに目を付けた著者の炯眼には驚かされる。作中には廃虚の島がリアルかつ美しく描写されているので、夏休み、本書を持って軍艦島に行ってみるのも一興である。

鼎島で、男性三人の変死体が発見された。一人目は餓死。二人目は高所からの墜落死だが、死体が発見されたのは高層アパートの屋上で、死体を移動させた形跡はなかった。三人目は映画館の座席で感電死していたが、当然ながら廃虚の島に電気は通っていない。鼎島を訪れた検事の黒田志土と関根春は、この謎を解くため議論を重ねていく。

この作品は一五〇ページの中編ながら、接点がなさそうな被害者の繋がりを探るミッシングリンク、被害者を死に至らしめたトリックを暴くハウダニット、廃虚の島で事件を起こすなど不可解な動機に迫るホワイダニット、犯人は誰かを調べるフーダニットに加え、冒頭部の断章と事件のかかわり、意外な場所に隠された伏線、暗号解読の要素も織り込まれているので、本格ミステリのエッセンスが凝縮されているといっても過言ではないのだ。

本書はタイトルそのままに、物語が進むにつれ様々なエピソードがジグソーパズルのピースのように集まり、意外な真相を浮かび上がらせる構成になっている。謎が解かれた時に浮かび上がる登場人物たちの心情は、今読んでもまったく古びていない。時代が流れても共感できる普遍的なテーマを描いたことも、本書の人気を支えているのは間違いあるまい。

文庫は名作の廉価版アーカイブとして登場し、文芸書は、新聞・雑誌↓単行本↓文庫化の流れが一般的だった。ところが一九八〇年代半ばに文庫書き下ろしが登場、バブル崩壊後の不況を追い風に売り上げを伸ばした。その影響は大きく、今では単行本にしないで文庫化するケースも増えている。本書は、「祥伝社文庫一五周年記念特別書下ろし」の一冊として刊行された。これは、当時新鋭だった作家に文庫書き下ろしで中編を書かせる企画で、文庫書き下ろしを牽引してきた祥伝社らしいアイディアだった。本書の息が長いのは、刊行時から名作を安く提供する文庫の伝統を守ってきたこととも無縁ではないのである。
この記事の中でご紹介した本
puzzle/祥伝社
puzzle
著 者:恩田 陸
出版社:祥伝社
以下のオンライン書店でご購入できます
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