突変 書評|森岡 浩之(徳間書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

わが社のロングセラー
更新日:2017年7月31日 / 新聞掲載日:2017年7月21日(第3200号)

徳間文庫
SF世界の迫真性と市井の日常性
森岡 浩之著 『突変』

突変
著 者:森岡 浩之
出版社:徳間書店
このエントリーをはてなブックマークに追加
突変(森岡 浩之)徳間書店
突変
森岡 浩之
徳間書店
  • オンライン書店で買う
関東の地方都市、酒河市がいきなり、危険生物が跋扈する裏地球へと転移してしまう。こうした現象は世界各地で発生しており、日本でも四年前に大阪を含む人口五百万人のエリアが裏地球へ飛ばされていた。関西大移災以降、政府も一般市民も危機感を強めており、生活必需品の備蓄や行動マニュアルは用意されている。しかし、まったく異質な環境で、生存の道を手探りで切り開いていかなければならないことに変わりはない。

主人公が見知らぬ世界へ飛ばされる「異世界転移」は、神話や伝承にそのルーツがあり、現代ではゲームやライトノベルを中心として一大カテゴリーになっている。森岡浩之が二〇一四年九月に発表した『突変』も外形的にみれば、そうした流れのなかにある一冊だろう。しかし、冒険や成長が主眼となる多くの「異世界転移」とは異なり、地域をまるごと異世界へと移動し、共同体や生活をいかに維持しうるか、あるいはどのように変容を余儀なくされるかを活写した点が秀逸だ。扱われているのは「異世界転移」という非常に空想的な事態だが、私たちにとって現実的な不安である地震や暴風雨などの大規模災害と同等の迫真性がある。しかも、裏地球への移災は、域外からの支援がいっさい期待できない。

似た設定の先行作品として、アメリカの小都市が荒涼たる遠未来の地球へタイムスリップしてしまうE・ハミルトン『時果つるところ』があるが、こちらは共同体を主導する科学者がいた。いっぽう『突変』は、老齢の町内会長、家事代行会社の若手スタッフ、スーパーの店長、おたく青年といった市井のひとびとが自助的に共同体を成りたたせるのだ。キメ細やかな人情がさりげなく盛りこまれ、物語に艶とふくらみをもたらしている。

SFを読みつづけている読者にとって森岡浩之といえば、先鋭的なアイデアが煌めく短篇集『夢の樹が接げたなら』であり、宇宙規模の人類帝国を背景に皇帝の孫娘ラフィールと友人の少年ジントが危機をかいくぐるスペースオペラ『星界の紋章』だった。『突変』は作者のキャリアに新境地を拓く作品といえよう。練りあげられた世界設定と小市民的感覚の日常性の取り合わせが新鮮である。成熟したエンターテイメントとして高く評価され、第三十六回日本SF大賞を受賞した。

また、発表と同時にシリーズ化を期待する声が聞かれたが、作者にはもともと構想があったようで、二〇一六年十二月、作品内の時系列でいえば前日譚にあたる『突変世界 異境の水都』が刊行された。関西大移災を克明に描いた、ひとまわりスケールが大きく、人間関係が複雑に絡んだ物語だ。

さて、刊行から三年近く経過した『突変』だが、その魅力は口コミでもじわじわ広がっているらしい。評判の高まりを受けて、いくつかの書店では仕掛け販売がおこなわれている。今後も広い読者に愛される作品として、長く読み継がれていくだろう。
この記事の中でご紹介した本
突変/徳間書店
突変
著 者:森岡 浩之
出版社:徳間書店
以下のオンライン書店でご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
わが社のロングセラーのその他の記事
わが社のロングセラーをもっと見る >
文学 > 日本文学 > 怪談関連記事
怪談の関連記事をもっと見る >