さよならの手口 書評|若竹 七海(文藝春秋)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年7月31日 / 新聞掲載日:2017年7月21日(第3200号)

文春文庫
強運の女探偵
若竹 七海著「女探偵・葉村晶」シリーズ

さよならの手口
著 者:若竹 七海
出版社:文藝春秋
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さよならの手口(若竹 七海)文藝春秋
さよならの手口
若竹 七海
文藝春秋
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ロングセラーとは、「何代にもわたって読み継がれる名作」か「次々と新作が上梓される息の長いシリーズ」のどちらかだろう。

拙著「女探偵・葉村晶シリーズ」はどちらでもない。前者でないことは言うに及ばず、「次々と新作が上梓され」ていない。なにせ第一長編『悪いうさぎ』から、第二長編『さよならの手口』が出るまでに、十三年もの歳月を要したのだ。

しかし、二〇一四年になんとか復活すると、あっ、こんなシリーズあったね、と間が空いたぶん新鮮に受け止めてもらえたうえ、時間経過を考えれば長生きだ、ということで、ロングセラーにもなってしまった。担当編集者の花田朋子さんがつけた、葉村晶のキャッチフレーズは「仕事はできるが不運すぎる女探偵」だが、こういうテン末を含め、葉村晶はそれほど不運ではないのかもしれない。

思い起こせば、葉村晶が登場した一九九四年は、サラ・パレツキーのV・I・ウォーショースキー、スー・グラフトンのキンジー・ミルホーンをはじめとする女性私立探偵物が続々と日本に上陸、3Fとも4Fとも言われるブームを巻き起こしていた。私はこのブームにまんまとハマり、自分でも書いてみたいと願っていた。

とはいえ当時の日本社会では、男の私立探偵すらリアリティに欠ける。そこで短編の依頼をいただいたのを機に、ヒロインの職業はフリーターにとどめ、文体はハードボイルド風のクールなものをめざして書いたのが、葉村晶の初登場作「海の底」だ。

幸い葉村の減らず口があちこちでウケて、単発の予定だった彼女を二度、三度と登場させることになった。やがて、別方面から女探偵もののおはなしの依頼が来ると、他に女探偵の持ち合わせもないから、葉村を興信所の調査員にした。ついには彼女で一冊作りましょう、ということになって、雑誌掲載時は別の女性主人公の物語だったものを数編、葉村晶を主人公にして書き直し、短編集『依頼人は死んだ』が出来上がった。

「私も女性探偵ものを書きたい!」という悲願はこうして、なんとなく流れで、葉村晶を軸に、いつの間にか成立してしまったのだ。

昨年刊行した短編集『静かな炎天』は、ミステリファンクラブ「SRの会」により〈SRアワード2017〉の国内部門に選ばれた。ハードボイルド小説の愛好家集団「マルタの鷹協会日本支部」によるファン投票で〈ファルコン賞〉も受賞。特に厳しい目利きのファンの皆様のお眼鏡に、葉村晶が叶ったことになる。

作者に十三年間もほったらかしにされ、とっくに消えていてもおかしくないはずが、しぶとく生き延びてきた葉村晶。彼女は不運どころか、とんでもない強運の持ち主ではないか、と近頃、私は考えている。
この記事の中でご紹介した本
さよならの手口/文藝春秋
さよならの手口
著 者:若竹 七海
出版社:文藝春秋
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