ひかりの魔女 書評|山本 甲士(双葉社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年7月31日 / 新聞掲載日:2017年7月21日(第3200号)

双葉文庫
ばあちゃんを核に祝祭的空間が広がる
山本 甲士著『ひかりの魔女』

ひかりの魔女
著 者:山本 甲士
出版社:双葉社
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ひかりの魔女(山本 甲士)双葉社
ひかりの魔女
山本 甲士
双葉社
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単行本の時点では、あまり評判にならなかった作品が、文庫でロングセラーになる。近年、このような事を、よく見かける。その最新の実例が、山本甲士の『ひかりの魔女』であろう。二〇一四年三月に双葉社から刊行された、四六ソフトカバーの単行本は、さして話題にならなかった。

しかし二〇一六年十月に、双葉文庫に入ると、状況は一変。順調なペースで売れ続け、現在、六万部を超えるヒットとなったのである。なぜ文庫になった途端、このように売れたのかは、担当編集者にも理由が分からないという。ただ確実にいえるのは、良作はどんなに時間がかかっても、世間から認められるということだ。事実、本書は、とても素晴らしい作品なのである。

物語の主人公は語り手の浪人生・真崎光一だが、中心人物は、彼の祖母である。伯父が亡くなったことで、伯父と一緒に暮らしていたばあちゃんを引き取ることになった真崎家。しかし光一の一家は、自分たちで気づかぬまま、崩壊しかけていた。それを、さりげなく立て直すばあちゃんの手腕は、まるでマジックである。

とはいえ、ばあちゃんは特別な事をするわけではない。相手の心を読み、負担にならない形で、手を差し伸べる。長い人生で培ったコネを使用する。良いと思った事は継続する……。ひとつひとつを見れば、実際にできそうな事を積み上げ、いつしか奇跡のような祝祭的空間が、ばあちゃんを核にして広がっていくのだ。そして、それを間近で眺めていた光一も、自分の生き方を変えていく。温かな自己変革が、たまらく魅力的なのである。

さらにストーリーの巧さにも注目したい。場所は明記されていないが、真崎家の暮らす街では、暴力団同士の抗争が起こっている。当初は、物語の背景に過ぎなかった抗争だが、実に意外な形で、ばあちゃんと絡んでくるのだ。この展開は予想できなかった。ばあちゃんの力により、とんでもないところまで飛翔するストーリーが、愉快痛快だ。そこも本書の読みどころになっているのである。

と、作品の魅力に触れたところで、あらためて山本作品を振り返ってみよう。横溝正史ミステリー大賞優秀作に選ばれ、ミステリー作家として出発した作者が注目されるようになったのは、人間心理を鋭く抉った『どろ』『かび』『とげ』からだろう。この三部作も本書のように、自己改革がテーマになっていた。だがそれが“ダーク”な方向で表現されていたのだ。一方、本書は、タイトルに引っかけるわけではないが、自己改革が“ライト”な方向性で表現されているのである。

さまざまな外患を抱え、政治は混迷を極め、経済も停滞している。このような現代日本を生きる人たちが、明るく前向きになれる物語を欲した。文庫になったことで、この物語を再発見した。そこに本書がロングセラーになった理由があるのではなかろうか。
この記事の中でご紹介した本
ひかりの魔女/双葉社
ひかりの魔女
著 者:山本 甲士
出版社:双葉社
以下のオンライン書店でご購入できます
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