げんこつで世界を変えろ! 書評|篠原 有司男(サンポスト)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年8月5日 / 新聞掲載日:2016年8月5日(第3151号)

げんこつで世界を変えろ! 書評
今も健康優良不良少年 みんなきっとギューちゃんが好きになる

げんこつで世界を変えろ!
出版社:サンポスト
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ぶっ飛ばすとかぶち込むとか、ダンだのボンだのバーンだのと、濁音が多いのは当然だ。なにしろボクシング・ペインティングを代名詞とするギューちゃんこと篠原有司男なんだから。野性的な音韻はそのままパンチの痕跡であり、濁点に彩られたテキストが、江戸っ子のべらんめえ調に乗って猛烈なスピードとリズムで疾走していく。そんでさ。あれだよね。すげえのよ。篠原において作品と発話と人生はいずれもぴったり一致している。

その文体も、不良少年の頃の想い出も、1960年代日本の戦後アヴァンギャルドを開拓した述懐も、渡米から現在に至る苦労話も、美術ファンにとってはすでに「前衛の古典」である。研ぎ澄まされたエピソード(天才にはエピソードが付きものである!)はもはや名人の語りであって、馬鹿と破廉恥と貧乏と夢が織り成すスラップスティックは笑えて泣けて飽きるところがない。ギューは煮ても焼いても生でもうまいのである。初見ならば、ニューヨークに外来種として棲みついた篠原というど根性ガエルの「ガラパゴス」ぶりに驚くはずだ。木枯し紋次郎みたいな、なんて比喩は今やどれほど通じるだろうか? ああ「ダチ公」なんて言葉が未だこの世に生きているなんて。

洋画の大家、林武から学生時代に贈られた「君の絵には嘘がない」という言葉を大事に抱えて、今も真正直に健康優良不良少年を貫く篠原は、見る前に跳べ、とばかりに考えるより先に次々に言葉を繰り出す。洗練と高級にカウンターパンチを喰らわしてこそ洗練と高級が生まれるというアヴァンギャルドの論理を、彼は実践し続ける。美術に関わる人間として言わせてもらえば、篠原がいかなる世代に属し、「げんこつで変え」ようとする「世界」の拠点がなぜアメリカなのか、といったあたりを念頭に置いた上で、この一冊いや一発を、味わっていただきたいところだ。

みんなきっとギューちゃんが好きになるし真似したくなる。呑みながら声に出して読んでみるのもいいだろう。傘寿を超えてなお半裸で奮闘するパフォーマンスで喝采を浴び、「カルチャーショックなんてのはこっちが与えるんだよ」と息巻くジジイに負けてなるものか! ハードカバーでスピンまでついた立派な造本だが、滋養ドリンクみたいにぐいっと服用して元気ハツラツにしてもらえるハンディな本だ。描き下ろしの挿図も嬉しい。それにしても、全編通じてインタビューのやり取りすべてに「」の記号がつくこの編集はなんとかならんかったのか。
この記事の中でご紹介した本
げんこつで世界を変えろ!/サンポスト
げんこつで世界を変えろ!
著 者:篠原 有司男
出版社:サンポスト
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