在り処 書評|本橋 成一(IZU PHOTO MUSEUM)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年8月5日 / 新聞掲載日:2016年8月5日(第3151号)

在り処 書評
“足していく写真”の集大成 隅々から人間の営みのにおいが立ち上る

在り処
出版社:IZU PHOTO MUSEUM
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在り処(本橋 成一)IZU PHOTO MUSEUM
在り処
本橋 成一
IZU PHOTO MUSEUM
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いいタイトルだなあ、と思った。それぞれの人間が、それぞれに、生きて息づいて存在しているそのありよう。それは同時に、写真家・本橋成一の“在り処”でもある。

IZU PHOTO MUSEUMEで、半年にわたり開催された写真展の図録であり、ずしりと肝にくる写真集。262枚の写真はすべてモノクロだ。半世紀以上撮り続けた、集大成である。私はページをめくりながら、その隅々から人間の営みのにおいが、じょわーっと立ち上ってくるような気がした。

順に、アラヤシキ(2011~)、雄冬(1963~)、与論(1964~)、炭鉱(1964~)、上野駅(1980~)、藝能東西(1972~)、サーカス(1976~)、屠場(1986~)、チェルノブイリ(1991~)と、初期の未発表のものも含め、9シリーズがおさめられている。

本橋さんとは、彼が小屋主をしている映画館で、私の作った映画を上映させてもらう、という関係でもある。

本橋さんの写真は“足していく写真”なのだ、と思った。“削いでいく写真”、の名作、写真家がそいでそいで切り取った瞬間と向き合う時には、私たちは静寂とも向きあうことになる。

でも本橋さんの写真からは、自然のささやき、人々のざわめき、叫び声、笑い声、泣き声、働く声…、いろいろな音や声が聞こえてくるのだ。中心人物の周りも丁寧に入れ込む撮り方である。だから本橋さんは、『ナージャの村』(1997)などのドキュメンタリー映画の監督も出来るのだと、改めて感じた。

師は、筑豊の記録作家、上野英信である、という。それは立ち位置、だそうだ。上野は京大を中退し、自らも炭鉱夫を経験し、拠点となる筑豊文庫を自宅に開設。そこでたくさんの人々と酒を酌み交わし、議論をしながら「追われゆく坑夫たち」などを書いた。写真学校在学中から、上野のもとに通う。

土門拳の「筑豊の子どもたち」は、今見ても、胸が締め付けられる。容赦のない、すさまじい表現力である。土門は、これをわずか半月くらいで撮ったという。

むろん、本橋さんはそんなことはできない。ひたすら愚直に通いつめ、互いに裸になったところで、やっとシャッターを切る。だから、炭鉱には、事故の悲しい場面もあるけれど、その痛みを共有しながら、カメラで抱きしめるようなところがある。これは、すべての写真に通じるものだ。どれを見ても、ここまで撮るのには、おそらく大変な時間のかけ方をしただろうと、感じさせる。

一方で、わくわくドキドキと、撮るのが楽しくて仕方がなかったろうなと、という写真も多い。上野駅のシリーズは、その最たるものだ。見ながら、何度クスリと笑ったことか。

「暗室の時間」という言葉を本橋さんから聞いた。暗室の中で、自分自身と作品と向きあう大切な、思想の時間だと。歓喜も絶望もあるはずだ。そんな時間の積み重ねから、人の心を動かす写真が生まれていく。
私は、これらの1枚1枚に写っている人々を、愛おしいと感じた。
この記事の中でご紹介した本
在り処/IZU PHOTO MUSEUM
在り処
著 者:本橋 成一
写 真:本橋 成一
出版社:IZU PHOTO MUSEUM
以下のオンライン書店でご購入できます
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