グローバル化と国家 英国のEU離脱と米大統領選挙、これから日本が進むべき道 日本文明研究所シンポジウム載録|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年10月7日 / 新聞掲載日:2016年10月7日(第3159号)

グローバル化と国家
英国のEU離脱と米大統領選挙、これから日本が進むべき道
日本文明研究所シンポジウム載録

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十一月八日に投票日が迫る米大統領選挙。クリントン候補とトランプ候補のどちらに決まるか、日本への影響も取りざたされている。日本文明研究所第五回シンポジウムは、「グローバル化と国家―英国のEU離脱と米大統領選挙を踏まえた今後、日本が進むべき道」と題し、八月二十四日に東京・渋谷の日本経済大学で行われた。パネリストは米カリフォルニア州弁護士でタレントのケント・ギルバート、国際政治学者の三浦瑠麗、日本大学危機管理学部教授の小谷賢の三氏で、モデレーターを作家で当研究所所長の猪瀬直樹氏が務めた。侃々諤々の議論の一部を載録する。(編集部)

トランプは大統領になるのか、人気のその理由

猪瀬 
先ごろイギリスでは、EU離脱の国民投票が可決され、多くの人が予想しえなかった結果が現実になりました。ある種のポピュリズムの下、これまでの秩序に混乱が生じ、国家という壁が堅牢ではなくなっている気がします。同時にアメリカの大統領選挙では、不動産王のドナルド・トランプが支持を集めている。アメリカ合衆国の自画像もまた、ぶれているように感じます。ケントさん、なぜトランプが今、人気を集めていると思いますか。
ケント 
それは、アメリカという国の成り立ちに遡る必要がありますね。アメリカはイギリスの十三植民地が本国と闘った後、いきなり合衆国になったわけではありません。まずは緩やかな連合となり、独立国家のように州ごとに政策が違ったため、混乱が生じました。それで憲法制定会議が開かれ、統一政府が作られた。と言ってもそもそも、それぞれの州に主権を残すことが目的ですから、アメリカの憲法には各州が連邦政府に委託する仕事が連ねられているだけです。国がすべきことは、防衛と郵便局と国政調査と、州と州の間の貿易、そのぐらいです。つまりアメリカの州は、独立国家のように主権も憲法も裁判所も持っていて、連邦政府がその権利を奪おうとすれば抵抗します。同様に、アメリカ合衆国にとっての国連は使うものではあっても、重視していません。安保法制で、国連決議によって自衛隊による武力行使が許されるようになるという話がありましたが、アメリカにはそのような形で、国連に指示を仰ぐ考え方はないのです。
猪瀬 
確かに、二〇一五年は、カリフォルニア州のGDPがフランスを抜いて世界六位になった、などと、国と一州が比べられたりしていますよね。
ケント・ギルバート氏
ケント 
そうです。また貿易協定は、他国の利益も考えて調整する必要がありますが、アメリカ人はそれも好きではないですね。自由貿易協定を締結すると、輸入品が安くなり、雇用機会が全体としては増えます。でも犠牲になる人も出ます。例えば一九九〇年代の北米自由貿易協定では、製造業がメキシコに一挙に移り、国内の労働者が多数失業しました。政治家や学者は、グローバリズムは効率がいいので進めたがりますが、貿易協定で潤うのは投資家や経営上層部のみで、一方に低賃金、雇用の不安定に喘ぐ労働者たちが出てくる。そこで大衆は、自分たちの利益を考えてくれる政治家が出てこないかと。それがトランプなんです。大衆は自分たちを守ってくれるのは誰だ、というときに、生活がどうなるか分らないTPPよりも、トランプの方がいいと。
猪瀬 
そうした国民感情が今、顕在化してきたということなのでしょうか。
ケント 
背景に政治不信がありますよね。現在、国会の議席数は共和党が上で、オバマ大統領は民主党ですから、ねじれが生じています。共和党の目的は、民主党の大統領を成功させないことなのです。日本の民進党が「与党に三分の二をとらせない」という目標しかないのと同じです。重要な問題は山積しているのに、全く機能していない。真面目に取り組んだのは、医療保険制度改革のみで、これすら未だ中途半端。山積している国の問題が何も解決されないから、国民の不満が募り、それが爆発したときに、ある種独裁者的な変革者を望むという筋書きではないでしょうか。現在のフィリピン大統領を見ても分かるように。
猪瀬 
オバマさんは公約をほとんど何も実現できていませんね。一方の共和党はブッシュジュニアが、IS出現の導因となるイラク戦争を初めてしまった。二大政党が信頼感を失っている中、トランプというトリックスターが登場したと。
ケント 
加えてトランプは有名人です。彼の名が最初に上がったのは、ニューヨーク、セントラルパークにあるスケートリンクの公共の改修工事。これが六年続いて全然終わらなかったのを、トランプが個人資金を投じて三ヶ月で完成させたんです。
猪瀬 
トランプは大統領になると思いますか。
ケント 
討論会次第だと思います。
猪瀬小谷さんはこの状況をどう見ていますか。
小谷 
これまでの発言を聞いている限りでは、トランプは大統領の資質に欠いているとしか思えません。今回のシンポジウムの議題は「グローバリゼーションにどう向き合うか」ですが、トランプは端からTPPに反対を表明をしています。それについては、最近になってヒラリーも反対し始めていて、どちらが大統領になってもTPPがご破算になってしまうのではと、危機感を覚えています。
ケント 
TPPは、オバマが最後の仕事としてやると思いますけれどね。
猪瀬三浦さん、最終的に大統領はヒラリーに決まるというのが、常識的な見方だと思われていますが、実際にトランプが大統領になるのか。なったらどのようなことが起きるのか、ご意見聞かせてください。
三浦 
これまで、トランプが共和党の大統領候補にはならない、と報道され続けてきました。ケントさんも公言しましたし、私もバブルだと思っていた。でも去年、アメリカ南部に行ったのですが、公認会計士や会社経営者などのアッパークラスの中に、意外なほどトランプ支持が多かった。日本での報道とも、CNNとも違う印象を受けました。先ほどケントさんは、アメリカの国民はもともと自由貿易を望んでいないし、知識人や政治家が推し進めてきたグローバリゼーションに対する、大衆の反抗のようなものが現れてきているのではないか、とおっしゃいました。確かにそのことで今、トランプ氏が出てきたことを半分ぐらい説明できると思います。残り半分は、トランプがレトリックとして、人種差別的な発言や、キリスト教保守的な発言をしながら、中道の経済政策を売り込む。つまり、弱腰のリベラルだと評されない立場で経済政策を中道に持っていくという、「発明」をしたのではないかと思うんです。

その裏には、民主党がリベラルすぎたことがあると思っています。オバマ政権の八年間で、例えばトイレは、男性、女性の他、ジェンダーが曖昧な方用を作るとか、中絶は胎児を殺すことですが、恰も正義の方策であるように訴えるなど、保守的な人たちには受け入れがたいリベラルな言説が進みました。

一方の共和党は、社会保守を主張の核に使おうとしたけれど、中絶を行う医師や、銃規制を主張するリベラルに対する憎しみに集中し過ぎて、大局観を見失った。結果として、中道の人たちがほったらかしになった。そうした人々の失望を、トランプ氏が目ざとく感じ取ったのではないかと思います。

しかし、結局どちらが大統領になっても、深い傷跡を残すのではないか。反対勢力は野党として闘いを続け、国内の問題は解決せぬままになるのではないかと思っています。
アメリカ政治のズルズル感とトランプの思い

猪瀬 
リベラルな政策には、現状が反映されるわけですが、一方で既存の価値観を混乱させるものでもあり、そういう中で何が正解なのか、その一線が見えにくい状況になっているということですね。

もう一つ、トランプは日本に対して、国防費の全額負担を要求する、と言っていますよね。二〇一三年にオバマさんは「世界の警察官をやめた」と言っている。シリアの難民、あるいはイスラム国、ウクライナ問題などが起る中で、冷戦時代から続いてきた世界的な秩序が崩壊し、我々の合意にも変化が必要になってきています。小谷さん、現在の状況には、一九三〇年代的な動乱の予兆を感じるところがありませんか。
小谷 
そうですね。一九二〇年代はヴェルサイユ体制、ワシントン体制と呼ばれる、列強の国際協調主義的な時代でしたが、三〇年代に入ると各国が孤立主義的になって、最終的に各国間の調整がとれなくなり、第二次大戦に突入するんですよね。確かに現在は三〇年代と似通っているところはありますが、全く同じとも言えない。更に我々は歴史に学ぶことはできますので、三〇年代のように各国が孤立主義に向かいつつある現状が、必ずしも戦争を引き起こすまで行くとは思いませんが。
ケント 
オバマは、中近東に関して現実的な判断をしたと思うんです。数千年前から続く宗教が絡むとなると、アメリカが日本の民主化に成功したから、イラクでも同じことができるかと言ったら大間違い。しかしシリアについては、何もしなさ過ぎましたね。

それからトランプが、日本は防衛費を全部自分で持て、と言っているのはおかしいと思います。米軍基地は、日本を守るためにあるのではありません。極東地域全体の安定をはかるのが目的で、そのついでに、武力行使を放棄させた日本も守ってあげますよ、ということですから。憲法を改正しても、米軍はどこにも行かないでしょう。
猪瀬 
嘉手納基地も横須賀基地も、日本の防衛のためにあるのではなく、アメリカの世界軍事戦略の一環として、極東を保全するためにあるのだと。そうした知識のない人が大統領になりそうであることは、我々にとって脅威ですよね。
三浦 瑠麗氏
三浦 
トランプに知識が足りないところはあるかもしれませんが、外交演説分析をしてみたら、軸となる思いが見えてきたんです。まず、軍事基地も含めて、これまでグローバルに展開してきたものを、撤退するか否か、アメリカが自由に決めたい。軍事戦略やグローバル戦略が硬直化していると感じ、調整したいと思っているのです。これは本能的な動きです。イギリスがスエズ以東から撤退したときに比べれば、まだ国力に余裕があり、世界に優位を占めている中で対応しようとしています。

私は、トランプはニクソンだと考えてきました。ケネディ、ジョンソン政権の起こしたベトナム戦争、米ソの対立でにっちもさっちもいかない中で、政権を引き継いだ。負のスタートの中で、中国を訪問するという、世界を驚かせる外交を行ったニクソンだと。「縛られない外交」、それがトランプの演説の基調をなしています。「Make America Great Again」はキャッチフレーズに過ぎず、一番の思いは、冷戦後のアメリカで、国の指導者たちが経路依存的な決断をしてきたことに、イライラしていた。何となくズルズルしていると。クリントン政権はズルズルと紛争に介入し、ブッシュ政権に至ってはイラク戦争を始めた。イラク戦争については、皆の戦勝気分が盛り上がっていた頃から、トランプは疑いを持ち始めています。彼は決して反戦主義というわけではなく、ビジネスマンの勘として、これはまずいと。
猪瀬 
確かに、キッシンジャーがニクソン外交を取り仕切って、米中国交回復をし、冷戦構造の中でバランスを作り直した過去がありましたね。そしてブッシュ政権とオバマ政権の中に流れている、ズルズル感。それが彼の経営思想と、アメリカ国民の漠然とした空気感とに結び付いて、現状があると考えられると。
ケント 
象徴的なのは移民問題ですね。メキシコから一一〇〇万人の不法移民がいるけれど、何の対策もなされていない。トランプは全て強制送還して、国境に壁を作る、と言っている。米国会には予算がないから、メキシコに払わせると、関税をかけることまで示唆している。トランプの言っていることは非現実的に思えますが、彼がかつて行ったニューヨークの公共事業のように、誰も動かさない問題に彼が取り組んで実現してしまうのではないかと、そうした期待を支持者は持っているんです。だからトランプの当選は分らないところまで来ています。
小谷 賢氏
小谷 
それでも彼は大統領にならないと思います。最終的な投票の場で、現在どちらにも決めかねている人は、ヒラリーの方が無難だと考えるのではないでしょうか。
三浦 
中道の人の流動性はもちろんありますが、ヒラリーが勝つ理由として一番に上るとしたら、ヒスパニックの票をおさえている点ですね。しかしそれにしてもヒラリーは、弱い候補であり、訴求力に欠けてきました。それはやはり、男性に支持されないからでしょう。エリートでありながら、弱者としての女性も代表していることから、イデオロギーを振りかざす声高な女だと煙たがられるのでしょう。実際、ヒラリーは「名誉男性」ではない。ファーストレディとしても、母親としても、その務めを充分に果たし、優れて女性的です。アメリカに限らずですが、社会にはダブルスタンダードがあって、男性政治家ならばリベラルで強い候補は評価されるけれど、女性が正義と権力を両方追い求めると、嘘つきとされがちです。ヒラリーは目的の実現のためポピュリストになる道を選び、TPPにも反対し始めたのです。
一九三〇年代と現在の近似、EU離脱と移民問題

猪瀬 
アメリカのトランプ現象、一方でイギリスのEU離脱。先ほど一九三〇年代的だと言いましたが、安定した秩序ある状態から、別の方向へ動いていくような予兆を感じます。そもそも第一次世界大戦の後に、これ以上戦争をしたらお互いを滅ぼしてしまう、というところから、国際連盟が成立し、パリ不戦条約が締結され、ヨーロッパにある種の統合の意欲が立ち上がりました。そして、第二次世界大戦後、国家という概念すら解体しかねない経済共同体にまで進んできたのがEUです。イギリスのEU離脱はそれに対するぶり返しだと思いますが、それにしても予想外でした。
小谷 
一九三〇年と今の時代が決定的に違うのは、経済のグローバリゼーションが世界を覆っている、ということです。アメリカの学者、ダニ・ロドリックの著書『グローバリゼーション・パラドクス』は、世界は政治的なトレリンマを抱えていると主張しています。それらは、民主主義と国家、経済的なグローバリゼーションのことで、これらは三つ同時には並立できないということです。この三つは二つまでは上手く結び付くけれど、三つ同時に結び付けようとすると失敗します。現状に照らしてみると、民主主義と国家が結びついたときうまくいっていたけれど、EUが民主主義を軽視し始め、国家とグローバリゼーションが結着したとき、民衆が利益を得られない状況が生まれてくる。結局グローバリゼーションを進めて儲かるのは大企業や多国籍企業、大銀行、国民の上位数%しかいないんですよね。それ以外の人は恩恵にあずかれず、中産階級より下層に位置する人々が、グローバリゼーションに対して敵意をむき出しにした。それがイギリスで起こった反動の状況ではないかと。
ケント 
イギリスは、ユーロ圏に入っておらず、国家主権を非常に大事にしている。架空の話ですが、中国と韓国と日本とベトナムとで、EUのような連合を作ったとしましょう。そしてその本部は釜山にあって、日本の電化製品の規格を釜山の役人が全て決める、ということになったらどうですか。各国のマーケットに共通するものができる、という利点は理論としては分かるけれど、日本の電気メーカーは面白くないですよね。EUもベルギーのブリュッセルで、イギリスの様々なことが決まっていくわけですから、釈然としないのは当然です。
小谷 
グローバリゼーションは民主主義では決められないものなんです。大部分の人が与り知らぬところで、国の上層部によって経済政策は進められていく。
ケント 
さらにEUには、難民の問題がありますね。難民を受け入れるかどうかは各国が決めるべきだったのに、メルケルさんが無制限に一〇〇万人単位で難民を受け入れると言ったことで、EU内は国境がないに等しいですから、各国が危機に陥っている。
三浦 
イギリスのアシュクロフト卿の意識調査によれば、イギリスのEU離脱に投票した人たちは、統一市場に留まることと、移民問題の自主規制とがバーターだという認識に欠けていたようです。実は、グローバリゼーションに対する否定のようなものは、気分としてはあるけれど、それはどちらかというと知識人よりの、もしくは政治家的な思考だと思います。我々イギリスは、経済的に強者だからEUから締め出されるわけがない、と離脱派が答えている。つまり離脱によって、グローバル経済から身を守ろうとしたわけではなかったのです。

離脱投票との相関性が高い指標は、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)に関連するものです。羊たちが草を食むのどかな田園風景、伝統的なイギリスの生活様式を守りたい。景観を害するような形で、勝手にケバブを売らないでほしい。そういう日常に密着したところが、実際には最も影響したのではないかと思っています。つまりEU離脱せずに、移民規制について話し合えばよかったんです。
猪瀬 
移民規制の問題だけだったと。
三浦 
今、イギリスのホテルやレストランでは、従業員にポーランドやハンガリー系の人が多くいます。イギリスも人手は足りないから、移民は必要なんですよね。それなのに極端な、しなくていい決断をしてしまった、というのが真相だと思います。遠藤乾著の『統合の終焉』では、EUは本当の意味で、世界政府的な役割をヨーロッパに実現するに至らなかったと。補完性原理ということがここしばらく言われていますが、決定や自治をより小さい単位から行っていって、溢れてしまった事柄のみ大きな単位が行っていく仕組みの中で、EUは最終的に残る事項しか扱わない。そういう考え方まで来ていたんです。だから離脱しなくてよかったのに、感情的な移民反対論を、ロンドン在住のエリートたちが押し過ぎた。ロンドン人たちは、田舎ものをバカにしやがると。EU離脱については、エリート主義の敗北と言われていますよね。
ケント 
日本では国に帰れないクルド人たちが、解体工事などの建設労働に従事していますね。日本にとっても労働力として必要だし、人道的にも強制送還はできない。でも難民としては認められない。他に比べると小規模ですが、移民問題は日本にも少なからずあるわけです。だから今回もシリアの難民を受け入れるべきか、というと私は反対です。受け入れ体制も、イスラム国を判別するシステムもできていない。
猪瀬 
シリアの難民申請で認定を受けた人は、二〇一五年にたった六人。僕も、一度に何万人も受け入れることは不可能だと思いますが、一〇〇〇人ぐらいずつ練習して、移民を受け入れる態勢を検討する必要があると思います。北朝鮮で何かが起ったら、すぐ海を渡って日本にきますから。そういうことについて、あまりにも楽観的すぎる。
三浦 
世界に比べると、日本はこれまで移民問題から自由でしたが、ボートピープルを、離散家族の合流を含めて、およそ三〇年間で一〇〇〇〇人以上受け入れています。移民については、同化政策をいかに行うかも重要な問題です。「同化」とは感じの悪い言葉で、民族性を剥ぎ取る措置のように捉えられがちですが、アメリカの資本主義にも、その基調にはプロテスタント的な禁欲主義があるわけです。何が文化で何がシステムなのかを見誤ると、摩擦が生じたり価値が壊れたりすると思います。今回のリオオリンピックでは、ダブルの民族性を持つ選手が活躍してとても嬉しく感じたのですが、私たちは民族性に固執しているのではなく、日本文化や価値を体現する人を愛し、称えるのではないでしょうか。だから今後、世界に日本を開いていくときに、私たちが大事にしている価値とは何か、ということを突き詰める必要があると思います。
小谷 
イギリスやドイツが直面しているのは、まさに同化の問題で、移民が続々とくるので、彼らを教育したり言葉を教えることも追いつかない。結果、移民のコミュニティがまばらに出来上がり、現地のドイツ人やイギリス人との間のコミュニケーションがうまくいかなくなる。地方の学校では、クラスに移民の子供がたくさんいて、ドイツ語や英語が話せないから授業が進まない。非常に根が深い問題です。
ケント 
それから難しいのは、アメリカの国内で生まれた子は、アメリカ人になる。ですから、違法で入ってきた女性がアメリカで子を産めば、子供だけアメリカ人になります。その母親を強制送還することはできないですよね。しかし違法で入ってきたのだから、国籍を与えたくはない。本当に難しいです、移民問題は。だから日本は慎重の上にも慎重に進めた方がいい。メルケルさんがこの大きな問題を勝手に決めてしまったことは、僕がイギリス人だったら怒りますよ。
猪瀬 
僕は、一〇〇t程の船にシリア難民五〇〇~一〇〇〇人が乗込んで、船が斜めになり、地中海に人が零れている、その光景に、国家の無い状態を目にしたと思いました。日本も第二次世界大戦に負けたとき、満州で国家が崩壊して、命からがら逃げてきたことがありました。今回シリアの崩壊で一〇〇万単位の人間が、EU世界に入り込み、あっという間に、他の秩序をも崩壊させていく、その怖さをまざまざと見た気がします。日本では所与のものとして受け止めているけれど、国家とは作り上げて成り立つものなのだと、改めて思いますね。
自由の許容、資本主義とは修正していくもの

三浦 
先ほどの一九三〇年代と現在の比較の話に口を挟ませてもらいますが、当時一番まずかったのは、資本主義に対する絶望だと思うんです。しかし資本主義は絶望するものではない。資本主義とは修正していくものですよね。
猪瀬 
一九三〇年代の歴史観としては、封建社会から資本主義社会になって、次は共産主義社会になるという、一種の理想主義が流れていたわけです。そして実際にロシア革命が起こったことで、いろいろな国家が社会主義国になっていく。そちらに向えば、正しい答えがありそうだった。それは幻想だったのですが。
三浦さんが言うように、現状にどのような理想を持てるのかと考えた場合に、資本主義は修正していくものなのだと。その先にあるイメージが、なんなのかが重要ですよね。
三浦 
ナチズムが台頭したとき、共産主義が果たした役割に、資本主義に対する絶望を深めることがあったと思います。アメリカでは、第一次世界大戦の帰還兵の凱旋パレードを、アナーキストや共産主義者が銃で狙撃するほどの治安悪化があったとか。普通の感覚では捉え難く、共産主義者は敵だった。共産主義という脅威がある中で、大恐慌を通じて資本主義にも絶望する。それで、国家社会主義になっていく。現在は、共産主義の脅威が欠けている中で、資本主義に絶望している。そのときどうなるのかと言えば、先進国の中産階級の人々が自分たちの利益を守るために、年金生活者や逃げ切り世代から保守化していって、資本主義の中堅勝ち組の既得権を残そうと、既得権を巡る政治になると思うんです。
猪瀬 
ドイツはナチスになったけれど、日本は安倍さんの祖父の岸信介を中心に、国家社会主義になったわけですよね。実際、つい最近まで日本は国家社会主義で、霞が関の官僚が差配して民間企業を育てていくという形だった。その体制は終わりましたが、次にどのような国家像を目指すのか、その統合のイメージが見えにくくなっています。
三浦 
例えばアメリカでは、鉄鋼や自動車など、重たい産業の労働者たちは夢を失っていますが、時を同じくして、シリコンバレーで様々な産業が花開いている。国のどこかで新たなイノベーションの花がひらけば、国全体の富として回っていくし、その上で国家が、資本主義の中で廃れていく職種に従事する人々に対して、新しい職業訓練をするとか、年金制度を整えるとかすればいい。日本で新しい産業が生まれない理由は国家管理の形を続けているからで、うまく代替わりを果たしていくシステムにしていかないといけないと思います。仮に自動車が世の中からなくなったら、日本は終わりというのでは困るでしょう。次に備えて、人材の育成と金融業を、もう少し重視すべきです。我々若い世代が、死にゆく日本を支えるのでは辛すぎる。だからもう少し自由を許容しなければいけないのですが、自由を嫌うんですね、日本の官僚は。
猪瀬 
自由とは責任を伴ないますからね。

二〇二〇年には東京オリンピックがあり、統合の気運が上っています。問題は、国にオリンピックが終わった後の展望があるかどうか。僕は今、大阪府の顧問なのですが、高齢化社会とイノベーションをテーマに、二〇二五年に大阪万博をしようという計画があります。二〇二〇年以後の国家目標を、大阪から作っていけないかと、そのように思っています。

話は尽きませんが、時間になりましたので今日はこの辺で。 
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